第8話 本性 side:宮藤美涼

「お待たせ美涼君、待たせてしまったかな?」


 私が一人モヤモヤしていると、先輩が車から降りて私のそばにやって来た。


「い、いえ!全然そんな事ないです!」


「そうかい?じゃあ早速落とし物を探そうか、どこか心当たりはあるんだよね?」


「えっと…正直どこからなかったのか分からなくて…大学内は心当たりのあるところは友人達と探したんですけど…」


 私はあれを落とした場所に心当たりがなく、どこを探そうか迷っていた。


「(…チッ)」


「え?」


「あぁいや何でもないよ、じゃあ一旦警察署に行ってみようか?もしかしたら届けてくれている人がいるかもしれないし。さっ乗ってくれ」


 そう優しい笑顔をした先輩に促され、先輩は先に車に向かった。


(今一瞬先輩が舌打ちをしたような…ううん、気の所為だよね。優しい先輩がそんなことする筈ないし)


 私もベンチから立ち上がり、先輩の車の助手席に乗り込んだ。その時『カシャン』と私のバッグから何か大切なものが落ちた事に気が付かなかった。



「すみません先輩…ここまで来て貰ったのに見つからなくって…」


「いやいや、気にする事はないよ。大切なものだったんだろう?」


 私たちはあの後警察署に忘れ物を確認しに行ったが結局届いておらず、今は駐車場に停めている先輩の車の中で話している。

 …何故か警察の人が先輩の車を何度も気にしていたような気がするけど。


「その落とし物ってそんなに大切なものだったのかい?誰か大切な人から貰ったとか?」


「えっと………はい…幼馴染から貰った大切なものなんです」


「…その幼馴染って昼の時にいた、あの彼の事かな?」


「っ!?」


「何となくそんな気がしただけさ。でももう探さなくてもいいんじゃないかな?彼は美涼君と僕に対して失礼なことを言って、美涼君を傷付けたみたいだし…僕ならそんな思いを美涼君にさせないのにね」


「えっ!?」


 気がつくと私の顔の近くに先輩のカッコいい顔があり、私の耳元で囁くように言ってくる。


「どうだい?そんな最低な男の事なんて忘れて、今日一日僕と一緒に過ごさないかい?絶対に後悔はさせないよ?」


「………それは…」


 何でだろう。普段の私であれば先輩と初めてのそういう関係になる事に抵抗はなかった筈なのに…今の私の心の中には先輩の顔が浮かんでこなかった。


「……ごめんなさい、ちょっと色々あって混乱してるみたいで!じゃあ私はここで…っ!?」


 私は先輩の誘いを断り車から降りようとしたが、ドアにはロックが掛かっていた。

 静かに私が焦っていると…先輩の手が私のバッグに伸び、中から小型の機械のような何かを取り出した。


「…ダメだなぁせっかく憧れの先輩に誘われてるのに断っちゃ…今までの演技が無駄じゃねぇかクソ女が」


 私の横で先輩の口調が急変し、上着の内ポケットから取り出したタバコを吸い始めた。

 …おかしい、先輩はタバコは吸ってないって……それにその機械みたいな奴知らない…


「あぁこれ?小型盗聴器、お前のバッグに今日入れてたの。実行する日だからバレてねえかなって思ってたんだが…ホント馬鹿なんだな女ってよ!ちょっと優しい演技すりゃ簡単に騙されやがって」


「…ど、どういう事…ですか…?」


「お前はずっと俺に騙されてたの、まぁこれからお前はひどい目に遭って一生真っ暗な人生を歩むんだ。精々自分の見る目がなかった事を後悔しろ。おいお前らやれ」


 そう先輩が誰もいない後部座席に話しかけたと思ったら、急に私の口元に布が当てられる。


「ん〜っ!んん〜………」


「ゆっくりお休みぃ …【春姫】ちゃん!ゲヘヘ」


 後ろから誰かに話しかけられたのを最後に、私はそこで気を失った………。







「ん………こ、ここは…?」


 私は少し肌寒さを感じて意識を取り戻し、目を開ける。そこは古びた無骨な天井で、体を起こそうとするが体が動かない。手足をみると部屋の中にポツンとおいてあるベッドの柵に、私は下着姿で手足がロープで拘束されていた。


「えっ…!?何?何これ!」


 私がギシギシと暴れていると、扉を開けて先輩と二人の男の人がニヤニヤしながらいろいろなものを持ってやって来た。


「ヒュー♪あの【四季姫】の下着姿だってよ!これだけでも高値で売れそうだなぁ!」


「おや目が覚めたみたいだね美涼君、どうしたんだい?そんな顔をして…君の憧れの先輩だよ?」


「何なんですかこれ!早く解いてください!」


 私が先輩を睨みながら怒声を浴びせると、先輩はまた先ほど見た無表情に戻り、近くの椅子を『ガンッ!』と蹴り飛ばした。


「うるせえ!黙れ!」


「……っ!」


「いっつも此処に無理やり連れて来た女はギャーギャー騒ぎやがって…お前らが色目使ってた男に抱かれるってのにもう少し嬉しそうに出来ねぇのかよ………。まぁ?数分後にはお前も俺たちに犯されてヒィヒィ言ってるだろうよ!ハッハッハ!」


 そう私の前で悪魔のような笑いをしながら近づいて来る先輩……この人は誰なの…?私の知ってる先輩じゃない…!


「本当はお前が落とし物を探してる時に攫ってヤるつもりだったが…まぁ多少計画の狂いはあれ、この廃ビルの方が都合がいいし誤差だよなぁ?」


「せ、先輩…?な…なんでこんな…い…いや……助けて!」


「本当にバカだなぁお前は!ずっと騙されてたってさっき言ったろ?…おいお前ら、後から回してやるからちゃんと撮っとけよ?後々騒がれると面倒だ」


「マジっすか!?あざーす!…って事でごめんなぁ?【春姫】さんよぉ…?大人しくしてりゃ痛くはねえからよ」


「いや…いやぁぁぁ!!!助けてっ!!!」


 私は一心不乱に身を捩って抵抗する。すると先輩だけじゃなくてもう一人のても伸びて来て、私を押さえつけようとして来る。


(怖い…怖いよ…秀人……助けて!)


 心の中には恐怖しか無く、唯一浮かんだ一人の男の子に対して私は助けを求めるように祈った。…しかし


「三谷さんバカですねこいつ!せっかく騙されてるお前を助けようとしてくれてたのに、お前が拒絶して引っ叩いたらしいじゃねぇか。そんなクソ女を都合よくわざわざ助けに来てくれるやつなんていねーよ!ぎゃはははは!」


 先輩の側にいたもう一人の大柄な男が私を見ながら笑っている。


(…そうだ……私は秀人に酷いことを……これは罰なのかな…秀人のことをちゃんと信じてたら……)


「やっと大人しくなったな。それじゃあ早速…」


 自分の行いに絶望した私は涙を流しながら抵抗する力もなくなり、そんな私の身体に手が迫って来る。


 もうダメだ、そう思って目を閉じた瞬間





 ガシャーーーン!!!





「美涼を離せ!お前ら!!!」


 助けを求めた人が窓を割って私を助けにやって来てくれた。




 

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