第7話 追憶 side:宮藤美涼
「……どうしちゃったんだろう急に…秀人…」
私は講義終わりに先輩を待ちながら一人でベンチに座り、数年話さなかった幼馴染…永井秀人のことを思い出していた。
「…昔は自分で見たり確認した事しか信じない人だったのに…変わっちゃったな…」
確かに先輩に対してのそういう噂は聞いたことがあった。しかしそのどれもが先輩の印象やイメージからは大きく乖離しており、人気者であるが故に妬んでいる人が流したデマだと言うのが大学の学部内での共通認識だった。
その事もあって昔の記憶の中にいる幼馴染と、今日の幼馴染の言動が私の中では一致せず、違和感がぬぐいきれなかった。
「一体どうしたの?あの頃から私の事を嫌ってるからそんな事を言いに来たの?」
そう言いながら私は朝に落としてしまったが、とても大切にしていたアクセサリーをつけていた場所を触りながら昔の事を振り返ることにした。
◇
私と秀人が出会ったのは幼稚園の頃から。両親とともに行った近所の公園で偶然会った時が初めましてだった。
そして話せば話すほど、家が近所だったり幼稚園が一緒だったり年齢と誕生日が同じだったり…とにかく私たちには偶然の重なりがとても多かった。
覚えている最初の印象は良く笑う子だなと思った。人見知りだった私に
『よう!おれしゅーとっていうんだ!おまえは?』
『み、みすず……くどうみすず…』
『へーそうなんだ!いいなまえだな!いっしょにあそぼーぜ!みすず!あっ!そうだ
!このまえきんじょのねーちゃんにもらったんだけどさ…おれおとこだし、これみすずにやるよ!』
そう声をかけて、桜の形をしたアクセサリーをくれたのを覚えている。それから私はそのアクセサリーをずっとつけるようになって、秀人と幼稚園の中でもよく遊ぶようになっていくと、必然的に秀人と一緒にいる時間が多くなっていった。
人見知りで全然話さなかった私のそばにずっと居てくれて、意地悪をしてくる男の子に対しては
『てめえら!みすずを泣かすんじゃねぇー!』
と毎回追い払ってくれたり、おじいちゃんおばあちゃんや動物にとても優しくして居たりと私にとっては秀人はテレビで見たことのあるヒーローそのものに見えて居た。
小学生に上がっても秀人は変わらずに私のそばに居てくれて、私が宿題を忘れて困ったときには自分が忘れたことにして助けてくれたりと、優しい所は大きくなってもずっと変わらなかった。
そんな秀人に私は幼いながらも恋をしていたんだと思う。ずっとそばにいたい…これからもずっと一緒にいて、秀人が困った時は今度は私が助けてあげたい…そんな事を思いながら私たちは中学生になった。
しかしその頃から私たちの関係に変化が起きた。いつも行きも帰りも一緒に登下校をしていたのに、学年が上がって行くうちに回数も減り…二年生になる頃には殆ど一緒にいない時間が増えた。
外で一緒に遊ぶ事もなくなったし、一緒にいる時間が減ったから私も女の子の友達と一緒にいる時間の方が多くなっていった。秀人の方も男友達と一緒にいる事も多くて、私はそれを遠くから見る事しか出来なかった。
私は秀人とずっと一緒に居たかったし、一緒に遊びたかったけど…三年生になる頃には挨拶を交わす程度の仲になってしまった。
私はその事をお母さんたちに話すと
『ん〜…そうだねぇ…今は多感な時期だからね…難しいんだよね…』
『そうね、美涼の事が嫌になったわけじゃなくて、永井君にも色々あるんじゃないかしら?』
お父さんたちは何か知ってるみたいだったけど、当時の私は秀人に嫌われたのだと思い、とても泣いたのを覚えている。
私は行き場の失った恋心を胸に、これ以上嫌われたくなかったからこそ秀人のことを遠くから見る事しか出来なくなった。そのあたりから徐々にいろんな男の子に告白されたりもしたけれど、頭の中にはずっと秀人がいたので断っていた。
それから私たちは高校に進学し、秀人と話す事も全くなくなって来た高校三年の冬。急に秀人が長期間の休みに入った。先生は家庭の事情とだけで詳しくは話してくれなかった。
そして数ヶ月の休みが明け、秀人が学校に帰って来た。……その時のことも鮮明に覚えている。秀人はまるで別人になったように顔からは笑顔が消え、無表情な人になってしまっていたのだ。
それから今まで以上に私や周囲の人に対して遠ざけるような雰囲気をまとうようになり、高校を卒業する時にはまるで立場が入れ替わったかのように私の周りには女の子の友達と男の子の友達、私に告白してくる男の子たちがいたが、秀人の周りには誰もいなくなっていた。
それから大学に進学し、秀人のことも良く見かけた。しかし彼は私に興味が無いかのように目を逸らしたり逃げて行ったりと、私は完全に避けられている事を確信した。
それから私は自分の心の奥にある恋心を封じ込め、新しく気になり始めていた先輩との日々を過ごしていると…何年も話していなかった秀人が急に先輩にいちゃもんをつけて、離れるように言ってきた。
…今まで私の事を嫌って避けていたのに、よく知りもしないで秀人との関係にいちゃもんをつけて遠ざけようとしてきた中学時代の男の子を思い出して、秀人に私は数年話さなかっただけでこうも人が変わってしまったのかと失望してしまった。
◇
「…私がどんな思いで過去を乗り越えようとしたのか何も知らない癖に…今になって話しかけてくれたと思ったらなんなのよ!私の気持ちはどうなるのよ…!」
そう独り言を漏らしながら私は今は何も付いていない場所の髪の毛をずっと弄っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます