第6話 数年ぶりの会話と衝突

「…とは言っても話しに行く機会がねぇな…それに何年も話してないのに今更どのツラで話しかければいいか分かんねえし……」


 俺は先ほどトイレで聞いた事実を美涼に話すべく、美涼の様子を伺っているが…とにかくあいつの周りには良くも悪くも人が集まる。

 その為ぼっちの俺が話しかける隙がある訳もなく、ただただ時間が過ぎていき…気が付けば昼休憩の時間になっていた。


 俺は一人で人気の少ない中庭のベンチに腰を下ろしてパンをかじっていた。ここらは景色がいいにも関わらず、人が少ないため俺の個人的な穴場だ。

 ちなみに三枝は本人曰く、この時間帯は食堂にナンパしに行っているらしい。…多分可愛い子を見に行くだけで嘘だろうけどな。


「…ん?」


 そんな事を考えながらパンをかじっていると、少し離れた屋根付きのテーブル席に美涼と友人達が座るのが見えた。友人たちはお手洗いにでも行くのか、荷物を置いてから美涼から離れて行った。


(…これはチャンスか?言わないと俺が気分悪いしな…)


 俺は席を立ち、美涼の元へと歩いて行った。



「…よう美s……宮藤さん。ちょっといいか?」


「…えっ?な、なんで…!?」


 俺が美涼に話しかけると、美涼はギョッとした顔で俺のことを見ていた。そりゃそうだ数年全く口を聞いていなかった幼馴染が急に声をかけてきたんだ。驚かないほうがおかしいだろう。


「急にごめんな宮藤さん。ちょっと聞きたい事っていうか…言いたい事があって」


「…そんな他人行儀で…もう美涼って呼んでくれないんだね、秀人…」


 俺が話しかけると驚いた顔をしていた美涼だったが、すぐに悲しそうな顔をして俯いた。…申し訳ないとは思ったが、今更美涼と本人を前にして呼ぶのは少し憚られた。


「…単刀直入に聞くんだけど、今日見た三谷先輩って人とはどういう関係なんだ?」


「…学部とバイト先の先輩だよ。いつもバイト先とか学部の事とかの相談に乗って貰ってるの」


「そ、そうか…宮藤さんはあの先輩の事をどう思ってるんだ?」


「…急にどうしたの?私と秀人は何年も話してなかったのに…」


「い、いやまぁ…その…あの先輩と関わるのはやめて置いたほうがいいんじゃないかなって言いに来たんだよ」


 俺が美涼にそう言うと、彼女は目に見えて機嫌を悪くしたようだ。


「なんなの急に……ずっと話しかけてくれなかったし、今になってやっと話しかけてくれたと思ったら…今更私の事に干渉して来てさ。それに数年ぶりの一つ目の話題がそんな話なの?秀人に先輩の何がわかるの?今更私のことに口出ししないでくれる!?」


「確かにおかしいと思うのが普通だと思うんだ、急にこんな事言われても。でもな…」


「じゃあなんで今更私に話しかけてくるの!?しかもよりによって先輩と関わるのをやめた方が良いって………私もやっと前に進もうとしてたのに…なんで邪魔するの!?」


「お、落ち着け…美涼が先輩をどう思ってるかはよく分かったよ、悪かった。でもあの先輩に関わるのはやめておけ。実はあの人は優しいフリをした最低な人で美涼の身に危険がっ…!」


 パァンッ!


 誰もいない中庭に何かを叩きつける乾いた音が響き渡る。それに少し遅れて俺の頬にヒリヒリとした痛みが襲ってくる。


「…秀人に何がわかるのよ…先輩と面識もないのに勝手な事ばっかり言って!先輩はそんな人じゃない!優しくて紳士的で私の事を一番に考えて行動してくれて…困った時には1番に助けてくれる…私の憧れの人なの!そんな先輩をバカにしないで!」


 そう言って俺の前に立っている美涼は涙を流しながら俺のことを睨んでいた。すると騒ぎを聞きつけたのか、美涼の友人達が帰って来て口々に『最低!』『美涼の事を泣かせるなんて…アンタ噂以上にクソ野郎ね!』と俺のことを責め立てる。


 そんな時にタイミングを計ったかのように例の先輩が姿を現した。


「どうしたんだい?この騒ぎは…って美涼君涙が…これを使いたまえ。…何かトラブルがあったようだけど…見た所何もされていないようだね。念の為にそこの彼以外のみんなで保健室にいこうか?僕も付き添うよ」


 そう俺を興味なさそうに一瞥し、美涼に対してハンカチを渡しながら優しげな声で誘導してくる三谷。友人二人も三谷と共に美涼を囲み、口々に慰めの言葉をかけている。


「…はい、すみません。ありがとうございます」


 そのまま美涼たちは歩き始め、保健室の方向に歩いていく。そして途中で一度美涼が俺の方向に振り返り、怒ったように俺に対して言葉を突き刺す。


「…数年話さなかっただけでこんなに変わっちゃうんだね。私の知ってる秀人は偏見でそんなことを言う人じゃなかったのに…。じゃあね、さようなら」


 そのまま美涼たちは去っていき、俺は一人その場で取り残された。


「…」


 俺は叩かれた頬ではなく、頭を抱えていた。


「…まぁこうなるとは思ってたけどな。美涼からしたら憧れの先輩を侮辱されたんだし…………いや…美涼に嫌われてでも良い。俺は俺のやりたいようにやろう」


 そう言って俺は拳を握りこみ、この後の動きを考え始めた。

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