一章 出会い

【春姫】編

第3話 再会した幼馴染

「うぉ…本当に戻って来た…!時間は……五分前か…」


 俺はシロネさんの背中に乗って穴に落ちたと思ったら、目の前は俺がよく知る通学路の風景に戻って来ていた。

 周囲を見渡しても俺がよく知る街並みが続いており、スマホで時間を確認するといつもの大通りに出る前の小道に俺がポツリと立っていた。


「夢…じゃ無いよな?いや夢にしてはリアル過ぎるし…何より服に残ってるしなぁ…涙の跡」


 俺が夢じゃなかったと確信できる証拠が、俺の胸辺りに少し濡れて残っていた天使様の涙の跡だった。

 何より頭の中にある存在感のある力…うん間違いなく現実だな。


「…この力もらったのは良いけど…使うのは怖いし封印しとこうかな。そもそも興味ないし…っといけねぇ、講義の時間に間に合わなくなるじゃん!急がねえと!」


 そう思い出した俺は大通りに出てから早足で道を歩く。少し早く歩いたお陰でさっきの交差点の赤信号に引っかかる事なく俺は横断歩道を横断する。


(にしてもなんだかやけに身体が軽いな…もしかして疲労回復の効果もつけてくれたりしたのかな?)


 俺は天使様たちに会うまでにあった朝特有の体のダルさがなくなっている事に気がつき、ラッキーと思いながら駅へと歩いていく。

 ふと後ろを振り返ると、当たり前だが赤信号を横断しようとしている真っ白な少女と猫はいなかった。


 それはそれで少し寂しいなと思った俺は考えることをやめ、駅の改札へと足を進める。

 後ろでクラクションの音と大きな声がした様な気がしたが、俺の中の記憶が蘇ったのだと思い、あまり気にならなかった。



 俺はその後普段通り改札を通り、駅のホームへと進んで大学行きの電車を待つ事にした。


『次は三番線に快速電車が参ります。当駅は快速電車は止まらず、通過致しますので〜黄色い線の内側までお下がりください』


 ここ一年ほどで聞き慣れた駅のアナウンスがホームに流れる。この快速電車が通過してからの電車に乗れば講義には間に合うって計算だ。


(ここの快速…いっつも思うんだがもう少しスピード落とさないと危ないと思うんだけどな…って………そういえばアイツも一緒の時間帯の電車だったっけ…)


 俺の目線の先には三人の女子大生たち…その中心にいる一際目を惹くスタイルのいい美少女…宮藤美涼くどうみすずを見て俺はそう心の中で漏らす。


 宮藤美涼。俺の通う大学、聖央せいおう大学の同級生で、うちの大学の【四季姫】と呼ばれている超美形四人の内の一人だ。

 紫がかった長い黒髪を纏めてサイドで巻き、遠くから見てもわかるスタイルの良さに小さな顔。顔の大きさに反比例した大きな目に白磁の様に白い肌…百人中百人が美少女だと答えるであろう視線の先にいる存在は、両隣の友人たちと楽しそうに談笑している。


 …そして俺の幼馴染でもあるんだが……高校に入る前に疎遠になってから、数年たった今でも大学内外で話したことは一度も無い。

 別に喧嘩をしたわけでは無いが、思春期特有の気まずさで自然と俺たちの間には年齢を重ねるごとに距離が空いていた。


(…本当あの泣き虫が手の届かない様な美少女になったよな…美涼の奴…まぁ昔から美形なのは知ってたけどさ)


 小学生くらいの頃はよく一緒に遊んでいたものだが、今では他人同然の距離。まぁアイツも俺のことなんてもう覚えてないだろうから、今更どうこうといった事はないが。


 当の本人の美涼は俺を含め、ホームにいる男の視線を独り占めしている事に気がついていないのか友人達と楽しそうにしている。


『間も無く快速電車が通過致します。危険ですので改めて黄色い線の内側までお下がりください』


 そんなアナウンスが再び流れ、右奥の方から電車が高速で走ってくるのが見えて来た。

 俺は美涼から視線を外しスマホを触ろうとすると、美涼の後ろから電車を見てテンションが上がったのか、幼稚園児ほどの男の子が横にいるお母さんの隙をつき線路に向かって走り出した。


『わぁ〜!でんしゃさんだ〜!』


『えっ!?ちょっと!待ちなさい!太郎!』


 そう言って走り出した男の子はお母さんを置いて行き、駅のホームに立っていた美涼の足に勢いよくドンっとぶつかった。


「…えっ?」


『え!?美涼!?』『ちょ、ちょっと!?』


 友人達との話に夢中になっていて後ろに気がつかず、黄色の線のギリギリに立っていた美涼は不意にぶつかられたせいか、踏ん張る事が出来ずに線路内へと吸い込まれる様に近づいていく。

 そんな美涼にブレーキのかからない高速の鉄の塊は、無慈悲にも減速する事なく美涼に突っ込んでいく。


(馬鹿野郎!何やってんだ!!!)


 俺は即座に体を動かし、頭の中にあった選択肢を迷わず頭の中で唱える。


『(停止ストップ!!!)』


 そう俺が心の中で唱えた瞬間俺以外の周囲のもの全ての動きが止まり、辺りは色を無くし一面が灰色になる。


「こ、これが時間停止…!?…まさか本当に出来るなんて…って今はそんなこと考えてる場合じゃねえな!美涼を助けねえと!」


 そういって俺は人混みをかき分けて、線路内に落ちそうになっている美涼を助ける為に行動を始めた。

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