第2話 貸し与えられた【チカラ】

「力を…貸す?」


『レムイエル様!?それは流石に我らの権限には…!』


「…静かにするなの。もうここまではこの力でも消せないなの…だったらこうするしか無いなの。それでお兄さん…受け取ってくれるなの?」


 そんな幼い容姿で、申し訳なさそうな顔をした子の提案を突っぱねられるほど俺は落ちぶれてはいない。一体どんな力なのかは知らないが、貰えるなら貰っておこう。

 …それにこの子も俺を巻き込んだ負い目を感じているようだし、ここで突っ撥ねるよりは受け取るのが正解だろうからな。


「お詫びに何かをくれると言うなら…受け取らせて貰っても良いかな…?」


「…ありがとうなの。お兄さんは優しいから、この力を適切に使えるはずなの」


 そういって天使の子が俺の頭に触れ、手に持っていた何かを俺の頭に入れる。


「え…!?」


「怖がらなくても大丈夫なの…ジッとしててなの」


 そう言われた俺の頭に、何かが入ってくる感じがする。…一体今俺の頭どうなってるんだ?


「…終わったなの。どうなの?何か変な所は無いなの?」


「…いや全く変わった感じはしないです…というか一体俺に何の力を授けてくれたんですか?」


「ん、ズバリ『時間停止』と『記憶操作』なの。男の人にとっては夢のような力のはずなの…!」


 俺の前で可愛らしくドヤ顔をしている天使の子……って今なんて言った?


「時間停止と記憶操作…!?…そんなの俺に渡して大丈夫なんですか?」


「…本来であれば私が与えるには大き過ぎる力なの…だから大丈夫かどうかはわからないなの…」


 …それを聞いて一気に不安になって来たんだが…そもそもそんな力を一般的には性欲がありあまる年代の男性に渡しちゃダメだろ!?


「…でもこの力は適性が必要なの。さっきお兄さんが私たちの存在を認知したり触れたりする事が出来たのも、その力がお兄さんに共鳴していたからなの」


「な、なるほど…?つまり俺はその二つの力に選ばれた…みたいな感じですか」


「そういう事なの。だからお兄さんが無茶な使い方をしなければ大丈夫なの。…今からその力の使い方について私が言うことをしっかり聞いて欲しいなの」


 そう言って天使様は真剣な顔つきになり、俺に力の使い方を話し出した。


「まずは『時間停止』この力は文字通り自分以外のもの全ての時間を止められる力なの。止めている間は自分だけが自由に動けて、止まっている他の生き物や物質を動かしたりする事ができるなの。但し自力で動かせられるものに限るなの。止める時間は自分で決められるけれど、長ければ長いほど体に負荷が大きくなるから注意するなの。


 そして次は『記憶操作』この力は対象を絞ったり、範囲的に記憶の改ざんができる能力なの。これも弄る記憶の時間や数によって体に負荷が大きくなるから注意するなの。

 でも今のお兄さんみたいに、魂に深く根付いてしまった記憶は完全に消す事が出来ないなの…

 記憶を薄めたりする事は出来るけれど、何かの拍子にフラッシュバックしてしまうなの。…以上が説明だったなの」


「…なるほど、つまり『時間操作』は自分だけが動ける空間が作れて、止める時間の長さも任意で決められるけれどやり過ぎると負荷が大きくなる。力の制限の例としては自動車を動かして遠くに行ったりとかは出来ない…と。


 そして『記憶操作』は一人から大人数の記憶の改ざんができて、心に残るような強い記憶は完全には消せなくて?これもやり過ぎたりすると負荷が大きくなる…と?」


「…凄いなの、一回聞いただけで覚えられるなんて思ってなかったなの…やっぱりお兄さんは不思議なの」


『うむ…我も思っていなかったですな…』


 まぁ昔から記憶力だけは良かったからな…役に立ったのは受験くらいなものだったけど。

 …にしてもこの力…聞けば聞くほど人間に渡しちゃダメな力だよな?悪用しようと思ったらなんでも出来るじゃん…怖いし、別に興味も無いから使わないけどさ…


「その…せっかく貰ったものなのですが…別に私生活で使わなくてもいいんですよね?まぁその…私生活に戻れるかもわからないですけど…」


「ん、勿論なの。その力を使う使わない、使うとしてもどう使うかはお兄さん次第なの。だから使わなかったら罰がある訳ではないなの」


『それに安心してくれていい人の子よ。我が貴殿が飛び出す数分前に戻してやろう。………こんなことになってしまったせめてもの償いを、我にもさせてくれ』


「いやそんな…本当に気にしなくていいですって。俺が勝手に飛び出したのが悪いんですし…」


『…いや、そうもいかぬ。貴殿の人生を大きく狂わせてしまう爆弾をつけてしまったのだ。それくらいさせてくれ!それにもう時間がない、ほら我の背中に乗ってくれ』


「そうですか…?じゃあお言葉に甘えて…」


 俺は促された通りにシロネさんの背中に跨り、同じ高さに飛んできた天使様と顔を合わせる。


「改めてこんなことになってしまって申し訳ないなの…それに詳しいことも何も言えていないなの…」


「いえ、気にしないでください。俺も本当に気にしてませんから…それに先ほども言ったようにこちらが早とちりしただけの話ですし」


「…いっそのこと罵倒でもされたら良かったなの、お兄さんはいい人過ぎるなの…本当に申し訳ないなの……」


 そう言って天使様は悲しげな顔をしてから、改めて俺に真剣な表情で忠告をしてくる。


「定期的にシロネをお兄さんの近くに派遣するなの、だから何かあったらシロネを探して欲しいなの。それと最後に…その力はお兄さんが使うには大き過ぎる力なの。使うなら使い方や回数、長さをしっかり考えて使って欲しいなの。…まぁお兄さんなら悪用もしないと思うし、大丈夫だとは思うなの」


「は、はい…使うつもりは無いですけど…簡単に試すくらいはやってみますね」


「…それでいいなの。頭で考えたら使えるなの。…じゃあシロネ、お兄さんを送ってあげるなの」


『畏まりましたレムイエル様。『開門ゲート』!』


 そうシロネさんが唱えると目の前の空間にトンネルのような穴が現れ、シロネさんと俺はその中に吸い込まれるように落ちていった………







『…ただいま戻りました、レムイエル様』


「ん、無事に送り届けられた?」


『勿論です……しかし本当に地上に戻しても良かったのでしょうか?彼のことを疑う訳ではありませんが、あの力を持った記憶があるまま…』


「…私たちが巻き込んでしまったなの。私たちの不注意で彼の人生が、本来歩むはずだった運命から大きく変わってしまったなの…あぁでもしないと世界のバランスが崩れるなの」


『しかし彼は………』


「…私たちにはこうすることしか出来ないなの…もっと上位の存在であれば、もっといい修正ができたかもしれないけれど…今私たちができる事はやったなの。あとはこっちの仕事なの」


『…そうですね。いつまでかは分かりませんが、我も時々彼の近くに顔を出して支えるとします』


「そうするなの。…本当に私たちは…やってはいけないことをしてしまったなの………」

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