第1話 天使と眷属
「………あれ?ここ何処だ?確か俺は…猫と少女を庇ってトラックに轢かれて死んだはず…だよな?」
確かに覚えている。しかし体に痛みなどは全く無く、それどころか擦り傷ひとつない五体満足で気がつくと俺は真っ白な空間にポツンと立っていた。
「何なんだ?ここ…天国…にしては別に徳を積んだ覚えも無いし…」
そう俺が頭を抱えていると、空から俺の頭に雫が降って来た。
「ご、ごめんなさいなの…私のせいであなたを巻き込んでしまったなの……ぐすっ…」
そんな声が俺の頭上から聞こえて来て、俺が上を向くと…何とそこには先ほど助けたはずの少女が泣きじゃくっており、その傍らに寄り添う形で白猫がいた。
しかしおかしな所が何箇所か…まず猫はサイズが普通よりもはるかに大きく、まるで虎のような大きさの体に純白の翼が生えており、明らかに俺の知っている猫じゃ無い。
そして少女の方、頭には誰もが知る天使の輪のようなものが浮かんでおり、背中には猫と同じように小さな純白の翼が生えている。…俺の目の前にいる二つの生命体(?)は俺の常識の外の存在である事は明白だった。
「えっと…?君は一体…」
「ぐすっ…ひっく………」
…うーん泣いてて話せないみたいだな…
どうしようかと俺が頭をひねっていると、まさかの猫の方が俺に話しかけて来た。
『人の子よ…すまない。我が主は貴殿への申し訳なさから泣き止むのが難しいようでな…我が代わりに貴殿の疑問への回答と状況の説明をしよう』
…驚いた、猫って話せるのか…?いや見るからに普通の猫じゃなさそうだし、羽も作り物じゃなさそうだな…そういう事もあるか…
「えっと…まずは…ここは何処なんでしょうか?俺はあの時死んで、こうして今天国に来たのでしょうか?」
『うむ、ここは確かに君達人の子らが「天国」と呼ぶ場所であながち間違いでは無い。……しかし貴殿の疑問と少し違う所がある』
「違う所…ですか?」
『左様。確かにここは天界であるが天国では無いのだ…ここは天国の入り口と言ったところか。そして貴殿がここに来たのでは無く、我らが貴殿を連れてここに来たのだ』
「な、なるほど…?それであなた達は一体…?」
『申し遅れた、我が名はシロネ。先程は助けようとして頂いて感謝する。そしてこちらが我が主のレムイエルという。我は主人の眷属で、主人は人の子らが言う天使という存在だ』
「て、天使!?それに眷属!?…本当にいたのか…そんなの…まぁいても不思議じゃ無いか…この状況だし」
今の俺の状態を考えると、そんな超常的な存在がいても全く不思議では無い。
さっきまで死ぬ寸前だった俺が、今こうして場所が全く違う所で無事に立っている事なんて不可能だからな。そんな事もあるだろう。
『…我が言うのもあれだが…随分とあっさり信じるのだな…普通はここで取り乱したりすると思うのだが?やはり人の子はよく分からぬ…』
「まぁ否定しようが喚こうが今こうして目の前に起きてる事が現実ですから。なら騒いでも仕方ないし、そんなことするなら受け入れて前を見る方が賢いと思うというだけですよ」
『…なるほど、貴殿の性格がどんなものか分かったよ。随分と割り切った性格なのだな。我はその性格、嫌いでは無いな』
「それはどうも…って天使様なら何故あなた方は地上にいたのですか?それにあんな自殺行為まで…」
『あぁ…その事か、まず貴殿にとって自殺行為に見えた事だが…本来、我々天界に住む者は地上人に見る事も触る事も出来ない…つまりは地上では何者も我々に触れることは出来ずに通過することになるのだ』
…つまりはあのトラックはシロネさん達が見えてすらおらず、トラックもシロネさん達を通過するはずだった…と…?
「え…じゃあ俺は無駄なことをしたって…事ですか?」
『う、うむ…まぁそう言う事になるな…』
な、なんてこった…完全に無駄死にじゃ無いか俺!…あれ?でも…
「でも俺…シロネさん達に触れましたよね?なんでなんだ…?」
『それが二つ目の「何故地上にいたのか」に繋がってくるのだ。…詳しくは主から聞いたほうが良いのだが……もう少ししないとダメそうだな…では我から簡単に話せる範囲だけ説明しよう。我々はとある目的の為に地上に降りていたのだがな…回収した力が原因で、貴殿に我々が見えてしまったのだ』
「その目的とか回収って一体…?」
『…すまぬ我らの機密事項なのでな。これ以上は我の権限では詳しくは言えぬのだ…』
そう言って少し申し訳なさそうな顔をしているシロネさん。まぁそう言う事なら仕方ないかと納得しようとしたが…
「ぐすっ…シロネ?お兄さんを巻き込んだのは私たちの不手際でしょ?ずずっ…なら私から説明する…」
『レ、レムイエル様!?し、しかし…!』
そう言って先ほどまで泣いていた天使の子がやっと泣き止み、俺の近くまで何かを持って羽ばたいて来た。
「…まずはさっき巻き込んでしまってごめんなさいなの…まさか私たちが見える適正を持った人がすぐに現れるなんて思ってなかったなの…」
「え…あ、いや全然…」
先ほどまで泣いていた子とは思えないほど、しっかりとした口調で話しかけられた為か俺は少しどもってしまった。
「そこで巻き込んでしまったお兄さんに、お詫びとして私からこの力を貸してあげるなの…」
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