時間停止と記憶操作能力を天使から与えられた俺。特に使う用途が思いつかないので、目の前の人々を助け続けたら…どうなるだろうか?

笹鬼

序章 変な力を天使に貰った。

プロローグ 人?を助けたら変な事になった

「はぁ…やっぱり朝から講義なんて入れるんじゃなかった…ねみぃー……」


 そう言いながら俺こと永井秀人ながいしゅうとは、サラリーマンや学生が多く歩く朝の街を歩きながらポツリと独り言をこぼす。

 当然誰に話しかけている訳でもないので、答えは帰ってこない。

 …独り言をこぼしたのは謝るからさ?近くにいたおっさん…そんな目で俺を見るな。


 それにしてもこの時間は通勤や通学のせいで人が多い。まぁ俺もその一人ではあるんだが。

 そんなどうでも良い事を考えながら俺は、一人で最寄り駅までの道を人混みに流されながらも歩いていく。


 やっとの思いで駅前の大きな交差点に辿り着き、俺は携帯を見ながら最前列で信号が変わるのを待つ。


(…ん?)


 俺が携帯を見ながら信号待ちをしていると、俺の横にフラフラと髪の白い少女と同じく真っ白な白猫が一匹やって来た。

 俺が見た感じだと、俺の横にやって来た少女はまだ小学生程の幼さで、近くに親らしき人物は見当たらない。その子どもはまるで精巧に作られた陶器人形の様な可愛らしさを持った容姿に、ノースリーブの白いワンピース?の様な服装をしている。


 見る場所が場所であれば、天の使いと言われても信じてしまいそうなほどの異質さと神聖さが同居しており、まるで同じ人間に見えないが人の形をした少女の存在のちぐはぐさに俺は混乱していた。


(…外国人か?いやでもこんなに真っ白な人間見た事ないよな…?親もいないみたいだし…)


 俺はそんな事を考えていたが、何かを探しているようでもなかったのでスマホに目を戻そうとした瞬間


(はっ!?何やってんだ!?)


 さっきまで俺の横にいた少女がフラフラと赤信号の横断歩道を渡り、車道に思いっきり出て行った。

 すると導かれるように隣にいた猫も少女を追いかけ、道路に出て行ってしまった。


(おいおいおいおい!マズいだろ!これ!)


 俺は急いで周囲を見渡すが、周囲の人々は一人も気がついていないようだ。


(おかしいだろ!何で女の子が車道に出てるのに誰も止めたり騒いだりしないんだ!?)


 俺が一人でパニックになっていると、奥の方から大きなトラックが少女に向かって減速せずに走って来ているのが見えた。

 このままではあの子と猫は轢かれてしまう!


 俺は一瞬迷った。きっとあれは幽霊的な何かで、だからこそ周囲の人が見えていないのだと。だからこそ助けなくても大丈夫なのではないかと…だが!


(それは言い訳だろ!目の前で人が死ぬかもしれないんだぞ!?見捨てる気かよ!!!)


 そう決意した俺は思い切り地面を蹴り、少女と猫の方へと飛び出した。


「間に合ええええええっ!!!!!!!」


「えっ!?」「にゃっ!?」


 俺の手にはふわっと羽のように軽い少女の背中を押し退けた感触と、猫を掬い投げた感触が手に残る。


 宙に舞い対岸の道路に着地した猫と、押し退けられて歩道近くに飛ばされた少女が驚いたような顔をしながら目を見開いて俺を見ていた。


 ブオォォォォン!!


 猫と少女の無事を確認した俺が横を向くと、数メートルの距離にエンジン音とクラクションを鳴らしながら突っ込んで来る大型トラックの顔が迫っていた。


(…あぁ…こりゃ死ぬな……間違いなく…)


 俺はその瞬間に自分の死を悟った。ものの数秒後に俺の体は木っ端微塵になり、この世を去るだろう。

 しかし俺の心には不思議と恐怖は無く、自分の命一つで二つの命を助けられた事への充実感で胸が一杯だった。


(なんだ…こんなにあっさり死ぬんだな…俺って。でもまあ良いか…どうせ今までも良い人生じゃなかったし、居てもいなくても世界にとっては何も変わらない命なんだ…人と猫の命を救って死ぬなら本望か………ごめんな爺ちゃん…若くしてそっちに行くことになったわ…)


 俺はそう最期に思いながらそっと目を閉じた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る