第4話 邂逅の一撃
「で、この先の街にいると? 本当に?」
「もちろん。僕は、謀は得意ですが、仕事はしっかりとするタイプなんですよ」
シオンとカノは、元いた街から離れ、リアの案内する街に向かって歩いていた。
飄々とした彼の表情に、若干の警戒心は覚えつつも、彼についていく。
今の彼女には、それしか手掛かりがないのだから。
「危険だと判断したらすぐに殺すから」
「……うん。任せた」
二人は影を介することで、お互いの思考をテレパシーのように伝え合うことができる。
リアのことを完全に信じていないカノは、すぐさま行動を起こせるように、常に身構えていた。
シオンもそれを止めるつもりはなかった。
彼に着いていくことで、精霊種と出会うことができるのかもしれない。
しかし、彼の行動で、二人に危険が及ぶのであれば、話は別だ。
どんな動きにも対応できるように、シオンも警戒は解かずに歩いていた。
「さあ、着きましたよ」
そんな時間が30分程度続いた頃だろう。
いつの間にか、目的地に到着したらしい。
「ここに、精霊種が……?」
彼に着いていった先にあったのは、バーのような場所だった。
この世界に、酒類が存在しているのかは分からないが、似たようなものがある可能性は否定できない。
そう考えると、ここは本当にバーなのかもしれない。
「……シオン」
そんなことを考えていると、カノの声が頭の中に響く。
「どうしたの?」
「気を付けて。この中にいるの、とんでもない化け物だから」
「え……」
ちらりとカノの方に視線を向けると、彼女は冷や汗をかき、身体は少し震えていた。
その様子が、彼女の言葉の信憑性を裏付けていた。
「入りましょうか」
そんな二人を試すように、値踏みする様に、リアが店の中へと誘う。
「……ああ」
シオンとカノは、顔を見合わせ頷き、店の中へと入っていく。
「お待たせしてすみません」
店に足を踏み入れると、リアは奥にあるテーブルへと近づいていく。
「──ん? ああ、やっと来たのか。随分と遅かったな」
「用事は終わったんですか?」
そこにいたのは、二人の美しい男女だった。
一人は黄金の髪と瞳を持つ女性。
「ええ。滞りなく」
「そんなことより、後ろの女は誰だ? 見たことのない洋装だが……」
もう一人は、燃えるような赤い髪と、どこまでも深い青い瞳を持つ青年だった。
両者ともに相当の実力者のようだが、恐らくカノが感じ取った気配は青年の方だとシオンは直感した。
彼からは、クレスやリベラに近い何かを感じ取っていた。
「用事の途中で出会ったのですが、どうやら精霊種を探しているようだったので、まあいいかなと」
「ちょっ、あなたねえ……!」
「ふん。まあいい。客人が一人増えようが二人増えようが変わりはしねえよ」
男は、シオンを静かに見つめる。
その瞳は何を映し出し、何を捉えているのか、彼女には理解できなかった。
だが、今自分は、明らかに試されていることだけが分かった。
一挙手一投足、言葉の一つまで見られ、測られているのだと。
「だがな──」
次の瞬間、男はシオン前に手を伸ばし、火球を放っていた。
「俺たちに用があるってんなら、その価値を示してみな。クソガキ」
「し、師匠!? こんな店の中でいきなり何、を……」
焦る女性だったが、異変に気が付く。
男の放った火球は、凄まじい威力だった。
シオンに直撃してなお、その余波は店ごと吹き飛ばす可能性があった。
だが、その炎も衝撃も、シオンの後ろには一切届いていなかった。
煙の中から現れたシオンの前には、黒い障壁が現れていた。
黒壁はばらばらと崩れていく。
その奥にいたシオンの目には、強い怒りが宿っていた。
「てめえ……。せっかく直した制服が、またボロボロになるだろうが!!」
次の瞬間、彼女の拳が影の壁を砕きながら、男の顔を捉えた。
「──ふっ。いいな、お前」
男は、シオンの目を見据え、楽しそうに笑う。
その拳は、薄氷の表皮に阻まれていた。
「気に入った。名前は?」
シオンは、気に入らない態度を示しながら、拳を戻す。
先ほどの攻撃は明らかに手加減していた。
推測でしかないが、彼の実力の1割程度も発揮していないのではないだろうか。
今のシオン一人では、精霊種や霊魔種には到底敵わない。
そう言われているような気がして、何とも言えない感情に襲われていた。
だが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
少なくとも、相手はシオンのことを話してもいい相手だと認めたのだ。
「私は、シオン。『転星少女(リライフガール)』シオン。あんたは?」
「俺は、ドラグシユル・アステラウス。精霊種の序列第二位だ。ついでにこっちは、デルフィニア・オルフェ。序列第三位で、俺の元弟子だ」
「何で私がついで扱いなんですか!? それに今もあなたの弟子ですよ!!」
適当な扱いを受けたデルフィニアは、目くじらを立てて、ドラグシユルに怒り散らした。
「それで、俺たちへの用件は何だ」
だが、当のドラグシユルはデルフィニアの怒りを無視し、話を進めていく。
「あんたたちに用っていうか、精霊種に聞きたいことがあるんだけど」
シオンは、彼らの目を真っ直ぐに見据え、たった一つの問いを投げかけた。
「死者蘇生の方法って知らないか?」
「死者蘇生……!?」
「へぇ。そういう理由だったんですね」
「……」
シオンの問いを聞いたドラグシユル、デルフィニア、リアは三者三様の反応を示した。
「そんなの知らないし、私達に出来るわけがない……! 精霊種は、自然の力を行使する種族よ? 死の否定なんて自然の摂理に反したこと不可能よ!」
デルフィニアは机を叩いて立ち上がり、シオンに詰め寄った。
「それでも、オレには蘇らせたい人がいるんだ。何か手がかりでもいいから教えてくれ」
「そんなこと言われても、無理なものは──」
「おい」
シオンの問いに拒絶を示そうとしたデルフィニアの言葉を遮り、沈黙していたドラグシユルが口を開く。
「シオン、だったな。少し場所を変えるぞ。あと、底の小娘も来い」
「は?」
「いいから来い。デルフィニアとリアはここで待ってろ」
それだけ言って、ドラグシユルは店から出て行ってしまった。
「え、あ、ちょっ! ちょっと、師匠!!」
ドラグシユルの行動が理解できないデルフィニアは、声を荒げるが、彼が振り向くことはなかった。
リライフガール~ネカマで男を釣っていた俺が異世界転性!?異世界を守るために、地球を滅ぼします~ 遥華 彼方 @Izumi_Iroha
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