第3話 情報屋リア

「初めまして。僕はリア。情報屋だよ」


「情報屋……?」


「人の話を盗み聞きするような情報屋に用はないけど?」


 突然現れた少年に、警戒心を露わにするシオンと、殺意を剥き出しにするカノ。


「まあまあ。情報屋が、情報をタダで売るって言ってるんですから、一先ず聞いてみてはいかがでしょうか?」


「何でオレたちに? 情報屋にとって、情報は資産だろ? 見ず知らずのオレたちに売る理由があるのか?」


「ありますよ。だって──」


 二人の敵意を涼しげに受け流し、リアは二人の敵意をさらに煽る様なことを口にした。


「あなたたちは、『剣聖帝王』クレス・レスティアを殺したんですから」


「っ!? 何で、それを……!」


「情報屋ですから」


「こいつ、やっぱり殺した方が……!」


「待って、カノ!」


 明らかに怪しいリアに、影の刃を突き立てようとするカノ。

 シオンは、その刃を自らの掌で受け止め、カノを制止させた。


「こいつが怪しいし、信用できないのは間違いない。……でも、同時に、貴重な情報源であるのも事実だよ」


「……」


「話を聞いてみよう。オレたちには圧倒的に情報が足りないんだ」


 シオンの言葉を、カノは否定できなかった。

 違う世界からやってきたシオンは言う間でもなく、カノも世界との関りが希薄だったせいか、この世界のことで知らないことが多かった。


「……分かった。ただし、有益な情報じゃなかったら、殺すから」


「ええ。もちろんですよ」


 カノの殺気を、リアは軽々と受け流す。

 リアのその様子は、彼がただの情報屋ではないことの証明だった。

 そして、シオンは彼に対して、警戒心以外の何かを感じていた。

 それが何なのか、まだ掴み取れないまま、話は進んでいく。


「それで、売りたい情報って?」


「あなたたちが探している、精霊種がすぐ近くにいます」


「え……?」


 席に座ったリアは、本題へと入っていく。


「ど、どどど、どこに!?」


「まあ、落ち着いてください。私は、精霊種の一人と、ある仕事の契約を結んでいる最中です。今、私は、その仕事の準備で彼らの元を離れていました」


「それで、その準備が終わったから、その精霊種の元に戻るってわけ?」


「理解が早くて助かります。彼らが、あなたたちの話をどう受け止め、どういう返事をするのかは知りません。ただ、会う価値はあるかと」


「……それ、情報なの?」


「大事な情報ですよ。依頼人の情報を売るなんて、情報屋としての信用問題に関わる行為ですから」


「それもそっか。……それで、その精霊種はどこにいるんだ?」


「ええ。今から案内しますよ」


 シオンは、リアからもたらされた情報を受け、精霊種の元に向かおうとする。


「待って。もう一つ、聞きたいことがある」


「何でしょうか」


 しかし、カノはまだ引っかかる点があった。


「あなた、私達がクレス・ラスティアを殺したことを知っていたわよね」


「ええ。それが何か?」


「何で知ってるの? あの日の戦いの情報は、断片的にしか出回っていない」


 シオンが意識を失っている間、カノは周辺地域で情報収集を行っていた。

 だが、イリスが死に、シオンとカノによってクレスが殺されたという完全な情報はどこにも出回っていなかった。


「お前、何かの目的で、あの戦いを覗き見してただろ?」


 カノは、立ち上がろうとしていたリアの喉元に刃を突きつけた。


「……さすがにバレますか。あなたのおっしゃる通りですよ」


「目的は……!?」


 飄々とした態度を崩さないリアに、カノは怒りを滲ませる。


「彼の持つ葬具ですよ。彼の武器には常々目をつけていたんです。出来れば手に入れたかったんですが、あなたたちに粉微塵にされてしまいました」


「あんな武器を……? 何のために?」


「そこまでは教えられません。私自身の情報は、提供する情報に含まれていませんから」


 リアは、突きつけられた刃を払いのけ、立ち上がる。


「とりあえず、行きましょうか」


「行くって、どこに?」


「もちろん、依頼人の元にですよ。そろそろ、合流する約束の時間なんですよ」


 彼はまだ何かを隠している。

 だが、それを問い質したところで、今のシオンたちにはきっと何も答えない。

 それを理解してしまっている二人は、どこかスッキリしない気持ちのまま、リアの導きに従うのだった。

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