■ 349 ■ エルダートファミリーの反撃
リクスらがダレットの別荘へとやってきてから、一年が経過した。
その間入れ替わり立ち替わりで【
「サヌアン様とは未来で会うことになるので、こちらを訪れないようそれとなく控えて貰ってもいいですか?」
「言われなくともサヌは自分が満足できる知識を得られる場所にしか訪れぬよ」
いずれクィスと出会う【
ただ、幾つか今後のために必要なアミュレットなどを用立てして貰う必要もあり、これはカイらが交渉してくれて【
もう一人の【
「俺、一般信者のくせにある意味【
リクスは神殿騎士でもないのに、前時間軸を合わせれば全ての【
おまけに、
「じゃーん! せっかくだからプレゼントよ! と言っても私たち【
ラムが訓練生たちに、まだ
「お預かりした武器の方はこちらで長槍に改造しておきました。決して罪無き人には向けないように」
カイはクィスが未来から持ちこんだ竜牙騎士団の
装備だけ見てもエルダートファミリーは並の神殿騎士を軽く超える逸品で身を固められているわけで、これは格別の扱いと言える。もっとも、
「オラス金貨、綺麗さっぱり無くなったわねぇー」
それはリクスの金払いがよかったからなわけで、格別の扱いだったが贔屓をされたわけではない。そこら辺の金勘定は政治部は厳格である。
「金払いのよい顧客を掴まえる目論見が外れて、政治部が残念がっていましたよ」
ラムとカイがそう【
どうやらリクスという太っ腹な金づるを留め置けなかったことについて、軽く文句でも言われたらしい。
「収支は黒なんだから文句言わないで欲しいわ。カイ、あんたとっとと【
「馬鹿言わないで。政治部を敵に回す【
なお、現在の【
ラジィの前の【
「最高指導者が軽々しく【
「それにシェキナ様はもう高齢ですので。ここまでの移動も玉体にはお辛いでしょうし」
ラジィの先代にして当代の【
いずれにせよ、一年間でできるだけの指導は受けた。訓練兵たちの戦技はまだまだ【
だから、
§ § §
「正直に言えば、俺はお前たちにごく普通の神殿騎士として幸せな一生を送って欲しいと、今でも思っている」
エルダートファミリーを食堂に集めて、リクスはそう己が胸の内を吐露する。
今のところ【
クィスだった頃、百や二百を優に超える子供たちを相手にしていたリクスは知っているのだ。子供というのは、どんなに真面目な子でも全面的に信用できる存在ではない、ということを。
愛されるため、傷つかないために子供は平然と嘘を吐く。自覚的にも、無自覚的にもだ。それが大前提だからどの国、どの都市の警邏機構も子供の証言というのは信憑性に欠けるもの、と見做す。
子供を無条件で信じる、というのは危険なのだ。万が一リクスが「やり直し」をすれば、未来から敵がやってくるかもしれないという現状では厳重な注意が必要になるのだから、この対処は当然のものである。
「俺の目的はあくまで、グランベル大陸で手ぐすね引いて天使を待ち構えている悪党に、天使をよい様に利用させないこと、殺させないことだけだ」
だから、弟妹たちにリクスが語った内容は限定的だ。
自分はこの先の未来に起こる出来事を、とある手段で知ることができたこと。
だけどその手段はもう二度と使えないこと。
そんな自分は天使である訓練兵Gを救うためにこの場にいること。
自分が何もしなければ、天使はこの先の未来で天使を利用したい連中たちに利用された挙げ句、命を落すこと。
その未来を阻止するためにグランベル大陸からやってきたこと。
そして自分の知っている未来と違う行動を天使が取ると、自分の優位がなくなり天使を救えなくなる可能性がある為、訓練兵たちも含めて自分は天使とは一切接触ができないこと。
そして未来を知った対価として、自分には自分が知れた残り九年で寿命が尽きることが確定しており、これを覆す術はない、と。
自分が未来から来た人間であるとか、そういう一部の事実を隠しねじ曲げつつも、己の目的と生きる意味だけは明確に弟妹たちへと伝えておく。
もう少し弟妹が大人になったら、いずれ全てを話そうとは思っているが。
「俺が為すのは独善であり、人類救済なんて立派なものじゃない。だからお前たちにはお前たちの生きる意味を見つけて欲しいと思っていて、それは――」
「神殿騎士になるのなら、別に九年後でも全く遅くはありません」
リクスの言葉を、そうエーメリーが遮った。
「あと九年しか一緒にいられないなら、だったら離ればなれになるなんて嫌です!」
ビアンカがそう、涙を浮かべた瞳でリクスの提示する平和な生き方を否定する。
「やりたいこと探すなら、りっちゃんについていったほうが色々ありそうだし」
シータは普段通り、のんびりとした口調で己を語るのみだ。
「それに、ジィが首を落とされる未来なんて、私だって見たくないです」
温和で人を傷つけることも傷つくことも苦手なディアナが、自分の目的も同じだと同和する。
「冒険者生活上等。楽しみ」
お上品な環境など要らぬと言い切るのは、蛮族の生まれかと疑いたくなるイーリスで、
「うだうだ語るほどのことじゃないだろ! 兄貴は俺たちを助けてくれて、俺たちは家族だ! なら今度は俺たちが兄貴を助ける番だ! それだけの話だろうが!」
フェルナンが語気も荒くそう捲し立てれば、珍しくファミリーの全員がそんな剥き出しの感情に頷いた。
「御兄様。どうか私たちに『来るな』と命じないで下さい。天使だろうと関係なく、ジィもまた私たちの家族なのですから」
そうエーメリーに懇願されれば、リクスとしてももう言い返しようがない。
『
それが
「ありがとう……みんな、不甲斐ない俺に力を貸してくれ」
「勿論です、御兄様」
「微力を尽くします!」
「頑張るよ。うん、頑張る」
「お役に立ってみせます!」
「お
「水くさいぜ兄貴! 俺たちがいれば百人力だぞ!」
「いいや、千人の救援にも勝るよ」
リクスはだから、自らの愚かしさと後ろめたさを呪いつつも、新たな弟妹を率いてアズライルとミカへ、ノクティルカへ、そして
「ダレット様、カイさん、ラムさん。これまでありがとうございました」
リクスがそう深々と頭を下げれば、
「なに。元は
「頑張れよー長男、妹たちを泣かせるなよぉ。全てが終わったら訓練兵全員揃いぶみで、一度ぐらいは顔を見せに来なさいな」
「……はぁ、私が【
ダレット、ラムはそう一同を鼓舞してくれるが、カイは少しだけご愁傷様だ。
これで最期だからと、皆で手分けしてダレットの別荘を隅から隅まで徹底的に清掃して、そうして、
「あと九年、宜しく頼む。じゃあエーメリー、出立の号令を頼む」
「はい、御兄様」
既にリクスは公的には前面に立たず、エーメリーが仮のリーダーとしてエルダートファミリーを率いていくことは了解済み故に、
「ではエルダートファミリー、出撃します」
『応!』
ミカとアズライルが積み重ねた数百年の宿願を。
ノクティルカが積み重ねた数百年の宿業を。
それら全てを覆すための、たった七人だけの戦いが。
「いくぞ、戦いの舞台へ。グランベル大陸へ」
『グランベル大陸へ!』
今、ここから始まるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます