■ 347 ■ 【厩】ザイン・へレット
「
「……」
そうして次にやってきたのは、今は
「あの、その背中の方は……?」
「あ、付き添いの
「【
メアの説明にエルダートファミリーは揃って顔を見合わせてしまう。
「……御兄様、【
「……たぶん」
一応エーメリーにそう返したが、リクスとしてもちょっと自信ない。
ただメアの背中に乗っかり、その背中に頬ずりしながらブラッシングをしている女性自身の髪はボサボサ、服は着たきり雀の寝ぼけ眼で、リクスは一目で分かってしまった。
――この人ジィの同類だ。同じ人種だ。
ラジィも新しい本が手に入ると書庫に籠もったきり、読み終わるまで他の何もしないような駄目な部分がある。
このザインも恐らくそういう類いの人間なのだろう。然るにリクスは覚悟した。
「エーメリー、皆も気にしたら負けだ。メアさんの言う事に従おう」
「……本気ですか、御兄様」
「おや、君は順応が早いですね。生きるのにそれはお役立ちですよ。では
そうメアもリクスもメアの背中で情けない顔しながら「えへ、えへへ……」と笑っているザインをガン無視することに決めたが、
「あれ無視できるとかリクス兄様凄い……」
「き、気味が悪いです……」
真面目なエーメリーやビアンカ、ディアナなどはどうにも居心地が悪そうである。
特にディアナなどにはザインが理解の及ばない不気味な人みたいに見えるらしく、そっとリクスの側に寄り添って裾を摘んで来る始末である。
「
「未知の生物、目の前にいる」
「イーリス、兄貴が気にすんなって言ったろ。無視すんだよ」
メアの講義は続くが、エルダートファミリーの半分ほどは講義が右から左へ抜けてしまっているようだ。
リクスの聞く限り、メアの講義は分かりやすくちゃんとしたものではあるのだが……
「
「なるほど。友好アピールか……使いこなせれば探検にはこれほど心強い魔術もないね」
「はい、しかし完璧に使いこなすには周囲にどんな魔獣がいるかの事前把握が必要というジレンマもあります。未開の土地へ踏み込む際に【
「凄い……リクス兄様本当にあの【
「見習おうにもちょっと難しいですね」
「心を無にすれば簡単だよ?」
「心が常に無の奴は参考にならない」
「そんな無駄なことしてねぇで魔獣なんて片っ端からぶっ殺していったほうが早いって!」
とりあえずリクスは弟妹たちの存在も無視する事にした。最悪、リクスの【
最終的に
§ § §
夜半、酒席を囲みながら、
「というわけで【
【
「んー、あまりやる気が出ませんねぇ」
【
どこかからやってきた猫を膝に乗せて無心にブラッシングをしている様は、ある意味ラジィ以上に自分の世界に閉じこもっているように見える。
「……もしかして、俺の言うことが信じられないということでしょうか?」
「いーえー? 信じてますよ。グランベル大陸はリュキア王国のスティクス殿下と貴方、本当に同じ顔してたそうですし」
そう何気なくサラッと返されたもので、リクスは危うく聞き流しそうになってしまう。
「……スティクス・リュキアを前々からご存じなのですか?」
「いーえー、知ったのは四ヶ月間にエルメレク訓練兵に聞かされてからです」
要するに【
「私ってば結構皆を愛しているので、お願いすると割と皆言うこと聞いてくれるんですよ」
皆、というのは要するに今黙ってザインの横にいるネメアーのメアとか、
「聖獣ネレイスのベロエーとかですか? 白イルカの」
そうクィスが尋ねると、流石にそれには少しだけ感心したらしい。
「そうベロエーとかですよ。君も彼女に会ったんです?」
「いえ、俺が会ったネレイスはオーピスという方でしたが」
「ほむほむリュカバースのオーピスと。好い情報をありがとうございます。私の巡礼が回ってきたら是非ともご挨拶に伺わなきゃなぁ」
ザインがニッコリと笑って、再び膝の上の猫に視線を戻す。
「まぁ、頂いた情報の分ぐらいは協力しますがね。私、人間はそんなに愛してないんですよ」
その告白は分かってはいても、リクスには少々複雑というか不可解に感じられる。
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