■ 203 ■ それぞれの絶望






「攻撃を中止とか馬鹿も休み休み言え!」


 ダリルたちより一足先にリュカバースへ入植し、荷役という仮の姿に身を窶していた年頃は二十歳頃の青年、シミオン・ロウズは攻撃の中止をダリルに告げられて激しく憤った。

 話が違う。七日七晩をかけてリュカバースマフィアに所属する魔術師を徹底的に弱らせ、草を刈るようにマフィアの頭領カポごと魔術師たちを根切りするという話ではなかったのか。


「ここの領主の息子である竜牙騎士団員がお忍びの祭りを楽しんでいる最中、お前のダニに噛まれたようだ。そのままカルセオリー伯の館に帰ったため、客として招待されているユーニウス侯の身まで危険に晒されている」

「それがどうした! 領主の息子も、ユーニウス侯だってどうせまだ発症はしてないんだろ!? だったら続けるべきだ!」


 そう鼻息荒く赤茶色の髪を振り乱しながら食ってかかるシミオンに、ダリルは理解を示しつつも硬い表情を変える様子はない。


「いまそれでマフィアファミリーに損害を与えても、竜牙騎士団に睨まれている以上それはユーニウス侯の利にならないのだ。閣下の、そしてママ・オクレーシアの為の分隊スクワッドだ。命令無視はできん」

「ふざけるな! まだガレスが死んでないだろうが! ボクは止めないからな!」


 そうシミオンが聞いたことのない名を呼んだせいで、ダリルはにわかに不安を覚えた。


「ガレス? とは」

獣魔神フェラウンブラ本部神殿でボクをダニでも見るような目で見下したクソ野郎だ! あいつは殺す、あいつだけはこのボクの獣魔で殺す! その為にボクはこの第一分隊ファーストスクワッドに入ったんだぞ!」


 握りしめた拳を膝に叩き付けているシミオンを見て、ダリルの不安は更に膨らむばかりだ。

 第一分隊ファーストスクワッドはグラナを確殺するための部隊だったが、どうやらシミオンはグラナを抹殺する際にそのガレスとやらを巻き込むことが目的だったのだろう、と分かってしまったからだ。


「ボクは止めないぞ、ボクに止めさせたければリーダー! 今晩リッツォーリファミリーを襲撃してガレスの首を持ってこいよ! そうしたら明日の朝までには解除してやる!」

「……そうはいかんのだ。タイムリミットは今日までであり、明日にお前の攻撃を止めるのでは全てが手遅れだ」

「そんな都合なんかボクが知ったことか!」


 自分の都合ばかり並べ立てるシミオンに、端で聞いていたヤナもカチンときたようだ。


「あんたねぇ! 自分の都合ばかり言ってないで仲間の都合も考えなさいよ! 皆の首がかかってるのよ!?」

「黙れヤナ! そもそもこの作戦自体がボクのダニたちに大部分が依存してる癖して、ボクの意見は無視するってのか!? ここまで魔術師が弱ったのは誰のおかげだよ!」


 そのまま反射的に言い返しそうになっていたヤナの肩を叩いて、ダリルは頭を垂れる。


「……お前と、コルナールと、サリタのおかげだ。深く感謝している」


 実際にはコルナールとサリタによる回復阻害との合わせ技だから効果を上げているのだが、そこを今指摘してもシミオンはムキになるだけだ。


「だが、ユーニウス侯に逆らっては我々の未来が無い。反逆者として処刑のために第二分隊セカンドスクワッドとリュキア騎士を送り込まれては、俺たちでは太刀打ちできん」

「ハッ、なら海を越えて逃げればいいだけの話じゃないか。ボクは獣魔神フェラウンブラ本部神殿から海を越えてここに来て、そして今こうやって生きているぞ」


 今の居場所を失うことぐらいなんてことはない、と主張するシミオンには、重要な視点が抜け落ちている。


「俺たちは男だからな。だが実戦闘能力が低いサリタやコルナールに同じことをしろ、というのは酷だ。それは分かるだろう?」


 そう指摘すると、ハッとシミオンが見下したような笑みを浮かべるのがヤナには許し難いのだが――ヤナの肩にはまだ、ダリルの手が乗せられている。


「クソが、足手纏いを生かすためにボクに攻撃を止めろってか、リーダー」

「チームワークだ。お前とて一人じゃそのガレスとやらを倒せないから分隊スクワッドに入ったのだろう。違うとは言わせんぞ」


 ダリルに睨まれて、シミオンは沈黙を保った。

 流石にここで一人でもやれた、なんて嘘を並べ立てるほどシミオンは子供ではない。


 シミオンのダニたちは確かに強力ではあるのだが、獣魔を思い通り動かすのは基本、どんなに優れた獣魔神フェラウンブラ魔術師でも自分の視界の範囲内が限界だ。

 術者の視界外で戦果を上げるにはロクシーのように獣魔が自律思考できる頭脳を持っている必要があるが、シミオンのダニにはそんな頭脳はない。

 ただ餌となる魔力を追って噛むだけしかできないから無差別攻撃になり、それは作らなくてよい敵を無駄に増やすということでもある。


 更に言うと、シミオンのダニが運ぶ病呪はそれだけでは体調不良に留まり、体力のある大人を確殺できるほどの威力がない。

 噛まれた相手が栄養を常に補給し、しっかり休養を取るようにすれば、いずれ素の治癒力で回復してしまうのだ。


 無論、回復させる暇もなく噛み続けさせればいいのだが――ダニが無差別に病呪をばらまく以上、シミオンはどうやっても他の魔術師たちを巻き込み、巻き込まれた魔術師はシミオンを探して仕留めようとするだろう。

 一人では、どうやっても狙った相手だけを殺せない。だからシミオンは第一分隊ファーストスクワッドに入ったのだ。


 サリタとコルナールで体力の回復を阻めば、殺傷力が低めなシミオンの病呪でも十分に死を招くに至る。

 そこをダリルやジェロームが物理的に襲えば、ほぼ敵は何もできずに死ぬ。そうやってシミオンはガレスを殺すはずだったのに――


「分かったよリーダー。次の機会はあるんだろうな」


 そうシミオンが返すとダリルは安堵したようだった。ホッと胸をなで下ろす。


「当然だ。リュカバースがレウカディアの敵である限りな。竜牙騎士団員がこの地を去ってから改めて攻撃を再開することになるだろう」


 無論、その頃には敵も対策を考えてはいるだろうが、そこは許容するしかないだろう。

 敵が考えるなら更に第一分隊ファーストスクワッド側も知恵を捻るしかない。

 連絡員が言ったように、二戦目では勝てませんでは確かに第一分隊ファーストスクワッドは切り捨てても問題ない程度の雑兵でしかないのだ。自分たちを鍛え上げ、戦力として足る存在であると認めさせる努力を重ねるしかなく、それを怠るのは単なる甘えだ。


「了解だ。獣魔を止める。以後の連絡はまた状況が変わったら届けてくれ」

「これまで尽力してくれたのに、すまない、シミオン。仲間のために納得してくれて感謝する」


 そうダリルが深く頭を垂れ、まだ不満そうなヤナを連れてシミオンの家宅兼潜伏場所を去ると――


「ああもういいよリーダー。ここまで弱らせればボク一人でもやれるはずさ。最初からチームなんか頼ろうとしたのが間違いだったってわけだ」


 ハッとシミオンは鼻で笑い、鉈のようなナイフを背中に負って、その上から一枚、上着を羽織ってリュカバースの街へと繰り出した。

 シミオンとて元は獣魔神フェラウンブラ狩猟騎士団員だ。神殿騎士として一通りの戦闘訓練は受けている。故に、単独でもなにも問題はない。


「待っててね、コルン。ボクの女神様。今日こそボクが君をガレスの呪縛から断ち切ってあげるから」


 もう、シミオンに第一分隊ファーストスクワッドなど必要ない。

 ユーニウス侯の命令などクソッ垂れだ。サリタもコルナールもヤナも、そんな雑魚共がどうなろうとシミオンには知ったことか。




      §   §   §




「ここは……」


 小さな部屋の中で、コルン・ノイマンは目を覚ました。

 自宅の周囲はマフィアが警戒してくれていたはずだが、今自分がいるのは周囲を石壁に囲まれた見たこともない部屋だ。


 自分が何故こんなところにいるのか、頭がボウッとして状況が良く分からないまま身を起こし、


「え……?」


 自分が今服を着ておらず、右脚が足枷で壁に繋がれている状態であることに気が付いた。

 慌てて周囲を見回し、誰も部屋の中にいないことに安堵はしたが、自分の衣服すらない、という状況に不安を覚える。


「この部屋は、いったい……」


 初夏のリュカバースでありながら、どこかひんやりとした石畳に石壁、目の前には鉄の扉が一つ。その隣に椅子が一つだけ。

 窓もなければ空気は重く湿っていて、隙間風一つないそこは独房、という方が正しかろう。


「人質に、された?」


 ポツリと呟いた一言が、多分真実なのだろうとコルンは思うが――同時に不可解ですらある。

 祭りが始まってからガレスはずっとコルンの元へ帰ってはいないので、少なくとも敵がコルンとガレスを結びつけて考えるのは難しい筈だ。

 祭りが始まる前からずっと見張られていたにしても――まで考えて、何事にも鈍いコルンもようやく違和感に気が付いた。


 一応コルンも魔術師なので、手紙でマフィア魔術師たちが共有するべき日報は届けられている。

 それによると魔術師は皆獣魔のダニとおぼしきモノに噛まれて、大なり小なり病呪にかかっているという話だったが――


「私だけ、罹患してないのは何故?」


 そんな口から零れ出た一言に、


『そりゃあ、ボクが女神様を傷つけるはずないだろう?』


 応える声があり、扉が開かれて――そして、


「イヤァアアアアアアアアッ!! 兄さん、兄さん!!」


 コルンは絶叫した。

 扉が開いて部屋の中に入ってきた、いや放り込まれたのはコルンの最愛の兄であるガレス・ノイマンその人だが、


「――ッ!! ――――ッ!!」


 そのガレスは猿轡を噛まされている上に両腕を縛られ、そしてその脚は――足が、足首から下が両脚ともなくなっていて、今もボタボタと血を流し続けているような有様だったからだ。

 続けて四肢を切断されたロクシーも同様に部屋に転がされて、


「久しぶりだね女神様。ようやく会えた、ようやく君をボクから攫ったガレスのクソ野郎から君を取り戻すことができるよ」


 そんなわけの分からないことを言いながら、赤茶髪の男が鉈のようなナイフをトンと椅子の上に置いた。


「おっと忘れ物だ、はいこれお土産ね」


 笑いながら手提げ袋から取り出してヒョイとコルンに投げ渡してきたのは、


「ヒィッ!? あ、アァアアアアアアッ!!?」


 紛れもなくそれは切り落とされたガレスの両足である。


「そんな、なんで、兄さん……兄さん!!」


 発狂しかねないほどに残酷な現実を前に、コルンがなんとかガレスの足を元の位置に戻そうとするが、両断されたそれがそんなことをしてくっつくはずもない。


「違うよ、そうじゃない女神様。君には力があるだろう? 君にだけできる、人を癒やすことができる力の源が、さ」


 そうガレスを傷つけた張本人らしき男に指摘されて、ようやくコルンは思い出した。

 そうだ、自分には人を癒やす力がある。それを成し遂げられるアミュレットを自分は作ることができる。


「ピジョン! お願い急いで、兄さんが、兄さんが!」


 呼び出したピジョンがコルンの腕に嘴を突き刺すと、そこから盛り上がったピジョンブラッドが皮膚を突き破って形成される。

 引きちぎるように生成されたそれをガレスの足元に置けば淡くピジョンブラッドが輝くものの――足りない、この程度では足りるはずもない。


「ピジョン、もっと、もっと急いで、もっと沢山! 早く!!」


 命じられるがままにピジョンが裸のコルンの全身をところ構わず嘴で刺せば、次々とピジョンブラッドが形成されて、


「……ああ、本当に素晴らしい。美しい光景だよ。やはり君は聖女、女神様だ。自ら血を流す事を厭わず人を助けようとする姿……これ以上美しい光景がこの世にあるだろうか……!」


 そう、赤茶髪の男が跪き、まるで神の似姿でも見るかのような視線を向けてくるが、そんなものはコルンの意識に僅かたりとも挟まりはしない。

 次々生成されるピジョンブラッドを引き抜いてはガレスの足首の側に並べて足を押しつけると、ようやく僅かではあるが切断された断面が癒着し始めたようだ。


 そこで僅かにホッとしたコルンを責める者がいたら、それは人の皮を被った悪魔か何かだろう。

 だが今ノイマン姉弟の横にいる男は、そんな悪魔よりも遙かに醜悪でおぞましい我欲の塊だった。


「おっと、安心するのはまだ早いよガレェス?」


 鉈のようなナイフを手に取った男がガレスの側にしゃがみ込むと、


「はい、ザクッと」


 平然と癒着し始めた左足首の、その少し上をナイフで真っ二つに切り落とす。


「――ッ!! ――――ッ!!」

「いや、いやぁああああああっ!! なんで、なんてことを、せっかく治り始めたのに!!」

「何でもなにも、治っちゃ意味がないじゃないか。ほら、女神様、治療を続けよう? そうしないとガレスが死んじゃうよ?」


 そう穏やかに語りかけてくる男を前に、コルンは過呼吸を起こしながらもピジョンに命じてピジョンブラッドを再び作り始める。


 もうコルン自身も全身の至る所で皮膚が裂けて流血が止まらない状態だが、それを気にしている余裕などコルンにあるはずがない。

 裂けた肉にもピジョンに命じてピジョンブラッドの種を植え付けさせ、そうして生成したピジョンブラッドを祈りのようにガレスの足元に捧げ――


「はいじゃあもう一回やり直しね?」


 男が情けも容赦もなくガレスの右脚脛を輪切りにすれば、コルンの口から喉も割れよと言わんばかりの絶叫が迸る。


 なんで、なんでガレスがこんな目に合わなければいけないのか。なんでこんな残酷なことをこの男は行えるのか。

 それすらも分からず、コルンにできることはガレスを出血多量で死なせないようにピジョンブラッドを作り続けることだけだ。


「ああ……美しい。献身こそが人の心を打つ最も美しい感情なんだって。君を見ていると心が洗われる。昔からずっと君だけがボクの救いだった……そんな君を神殿から拐って行った、僕から奪ったガレスからようやく君を取り戻せた、取り戻せたんだ……」


 そしてそんなコルンを髪でも崇めるかのように恍惚と男は見下ろしながら、平然とガレスの脚をまた、切り落とす。

 地獄があるとすればここがまさにそうとしかいいようがない、そんな絶望の中で、


「誰か、だれか、誰でもいいから兄さんを助けて……助けて、ねぇ、助けて、下さい……お願いですから……」


 応えるものなど何もなく、しかし――


「ガァアアッ!!」


 ただ神に救いを祈って待っているだけのガレスではない。入口から、二体目のロクシーが飛び込んできて男の喉元に食らい付かんとする。


「!? 馬鹿な、ケダモノがもう一匹だと?」


 ガレスと親しくない赤茶髪の男はロクシーに、だから二つ以上の頭があることを知らず、


「グガァ、ガオォオッ!!」


 そして力は減衰するが、頭の数だけロクシーが分離して行動できることも当然のように知らなかった。

 だから頭が一つしかないロクシーを無力化しただけで安心してしまったのだ。


 残された二体のロクシーは匂いを辿ってこの部屋の場所を探り、一体がすぐ側で待機。

 そしてもう一体が素早く増援を呼びに行って、


「無事か、ガレス!!」


 だからガレスの狙い通りにクィスという救援が現れてくれた。

 部屋に飛び込んできたクィスが中の惨状に目をつり上げ、


「くたばれゲス野郎ォオッ!!」


 ここに来るまでに魔力を込めまくっていた拳を赤茶髪の男に叩き付ける。

 あっさりと男は意識を失い床に崩れ落ちて、しかし油断なくクィスはナイフを回収し、その上でガレスの猿轡と拘束を斬り捨てる。


「兄さん! 兄さん!!」


 猿轡を外されたガレスが、霞む目でコルンを見て、僅かにか細い笑みを浮かべる。


「だい、じょうぶだ、から、コルン」

「兄さん、兄さん、ごめんなさい、わ、わた、私が……私が誘拐なんてされたから……油断してたから……!」

「コルンの、せいじゃ、ない。悪いのは……そこの……ダニ野郎だ」


 爪先で蹴っ飛ばし、男が目を覚まさないことを確認してようやくクィスが二人の間に割って入り、ポケットから薬瓶を取り出した。


「先ずは二人ともポーションだ。飲めるか、ガレス」

「ああ、助かった、クィス」

「すまないガレス、もっと早くに来られれば良かったんだが……」

「息の、あるうちに、来てくれた、だけで、十分だ、よく……ロクシーに、気付いて、くれた」


 急いで二人にポーションを呑ませて表面の傷を癒やし出血を止めると、


「敵は無力化した! 皆急げ、緊急搬出だ。いつ敵の増援が来るか分からないぞ!」


 クィスは脱いだベストを裸のコルンに被せて、ソルジャーたちにガレスとコルンを運び出させる。

 その後に倒れ伏す男に手枷足枷をはめ、猿轡と目隠しをしてこれも運び出させ、最後に山のように生成されたピジョンブラッドも運び出させて――クィスは未だ硬い顔で拳を石壁に打ち付ける。


「これでダニの病呪は止まったが……回復阻害の神殿がまだ残っている。大量の血を失ったガレスが峠を越すには神殿を何とかして一時的にでも消さないと――」


 拷問で、あの男は機密情報を吐くだろうか?

 吐かなかったらなら夜に襲い来る薄刃影狼ウェプアウト心呑神デーヴォロ魔術師と交渉しなければならないが――交渉に応じるだろうか?

 交渉に応じて欲しい、と思う反面、こんなクズを助けるために仮に交渉に応じるようなら、そんな奴らは皆殺しにしてやりたいとも思ってしまう。




 幸か不幸か、クィスらは回収したその男から拷問をして情報を聞き出すことができなかった。

 というのも、警邏隊の子供から渡された手紙に、


「拷問、薬物、洗脳等の手段でその者を傷つけた場合、一切の交渉には応じない」


 と記されていたからだ。

 陣神カストラの神殿が有る限り、ダニ野郎の体力の消耗も証拠として残ってしまう。

 怒りを覚えつつも人質には手を出せず、そのまま夜を待ち――男の身柄と引き替えに得たのは、


「半日間、夜明けまでの神殿の停止。たったこれだけか」


 それ以上を望むならダニ魔術師の身柄は不要、好きに処分してくれと言われてしまえば、クィスはこれを呑むしかない。

 夜に現れた心呑神デーヴォロ魔術師が獣魔神フェラウンブラ魔術師の無事を確認して、神殿を解除。そのまま夜明けまでのにらみ合い。

 そうして日が昇る直前に再び神殿が作成され、クィスは名前も知らない憎きガレスの仇を敵集団の元へ帰すしかない。


 だが、その半日間がもたらす奇跡は敵の予想を大きく上回れる。


 ラジィの御厨コクイナ加護をしこたまぶち込んだレバー焼きにアサリと海藻のスープなどをしこたま流し込んで、なんとかガレスは一命を取り留めた。

 その他、弱った仲間もある程度は持ち直し、ラジィもクリエルフィの御厨コクイナ加護で自分の脚で立って歩ける程度には回復した。

 病呪は消えているので食欲も回復、目眩や頭痛、発熱などはなくなったが、皆の体力は半日程度では回復しきらない。重い疲弊がのしかかっている。


 依然不利な状況にかわりはないが、それでもクィスに文句を言うものはいない。


「ガレスの命が助かったのなら、これ以上の成果はないってものよ」


 たとえその足は見た目だけくっついているだけで、ガレスの両脚はろくに動かず、今後は車椅子での生活になってしまおうとも。

 それでも一命だけは、なんとか取り留めたのだから。






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