■ 125 ■ 運営はいつだって誤算するものです
「ポイント更新、E2をクリア」
「はい了解です。E2をクリア、ちょっと遅れ気味かなぁ」
ラジィの報告にリリーは若干の不安を抱く。
今現在本営はファーレウスの森を南北にA~I、東西に1~9のグリッドエリアに分けて状況を管理している。Eの1が宿営地正面だ。
ただ夜になると冒険者は宿営地に帰ってくるし、魔獣もまた夜のうちに前進を始めるので、冒険者が進んだところ全てが制圧済みになるわけではない。
現状、Eランク以上の魔獣が観測されない区域はE2、D~F1の四エリアのみだ。
「でも今のところ冒険者たちはよくやってくれてるわ。正直ベクターに感謝ね」
「流石は【
クラン【
低ランクパーティに積極的にEランク
冒険者たちの雰囲気は悪くなく、士気も高い。またそろそろ低ランク冒険者たちは封魔石に手が届いており、Cランクパーティの一つは【
「脱落者も出ていないのは結構だし……もう少し討伐制限を緩めてみるか。なんかいい口実ない? 口実がないと行き当たりばったりって罵られそうだし」
「実際行き当たりばったりではありますがね」
ラジィの問いにナガルがクスリと笑う。
今の宿営地本営――と言ってもテントだが――に集っているのはラジィ、シンルー、アウリス、リリー、ナガルの五人だ。
他の魔術師たちは、オーエンとイオリベは夜間の宿営地の防衛、ティナ、ガレス、クィスは
こっそりと森を【
改めてラジィの魔術はとんでもないな、とクィスやガレスは驚嘆に息を呑むばかりだ。
「では、ポーションや防御の封魔石を交換したパーティの討伐制限を一つ増やす、というのはどうです?」
「確かに、命のストックが増えているわけですからね、多少の無理は利くわけですし、理由としては悪くないですね」
アウリスの提言にナガルが頷いた。確かに条件としては悪くないだろう。
「で、でも、それで防御の封魔石を使ってしまったら大損になるのだ。苦労をドブに捨ててしまった連中は腐るのだ、腐ったミカンは籠の中の全てのミカンを腐らせるのだ」
「うーん、シンルーさんの言うことにも一理ありますね、士気の高さは重要ですから」
シンルーの意見は無視できるものではない、とリリーがこれに同意する。
確かに防御の封魔石があれば疲労からの不意打ちを食らっても命は助かるだろう。だがそれは必死に溜めた100点をこの場で失うということで、低ランクパーティには痛すぎる散財だ。
これまでの苦労が水の泡になってしまうわけで、一気にやる気を失ってしまう低ランクパーティも現れるかもしれない。
こういうとき最悪を想定するシンルーは役に立つわけで、その提言は無視すべきでないだろう。
「では間を取って人数分のポーションを持っていくなら、ってことにしておく? ポーションなら十点交換だし、そこまで損した気分にはならないでしょ」
「そうですね。奇襲からの即死は幾ら回復ポーションがあっても無意味ですが――まあクラン【
ラジィの提案にアウリスが頷き、これには誰からも異論がないようだ。
回復ポーションをパーティ人数分所持している場合、討伐制限を+1するという方向で三日目の
四日目の朝にこの提案を受け、全てのパーティが主催側を喝采。人数分の回復ポーションを備え、討伐上限を上げて森の奥へと挑んでいく。
「ポイント更新、E3をクリア」
「はい了解です、E3をクリア。ここら辺でCランク魔獣が増えてくる頃ですね」
そうして四日目が終了。Cランク魔獣はどれを倒しても基礎得点が40だ。そろそろクラン【
【
「ポイント更新、D3、F3をクリア」
「はい了解です、D~F3をクリア。もう少し【
五日目が終了したが、【
疑問に思ったラジィがベクターに尋ねてみたところ、
「期限は二週間だろ? 後半一週間が勝負だし、先ずは深域まで安心して踏み込めるよう魔獣の数を減らすのに注力してるだけさ。どうせ低ランク冒険者は森の奥には入ってこれないしな」
「なるほど」
ベクターとしても、後半に割の合わない雑魚討伐を低ランクパーティに続けて貰いたいため、先ずは徹底して恩を売ることにしているようだ。
とはいえ後半に目の前で高得点をバンバン出されれば、低ランクパーティもやる気はガンガン失せていくだろう。ここで恩を売ることがどれだけ効果的か、ラジィとしては懐疑的だが……
そうして迎えた、六日目。
「……何が起こったの?」
「わ、わかりません……」
ラジィとリリーは宿営地を眺めて、ただ呆然とするしかない。
開始当初32パーティだった参加者が、六日目午後にしていきなり71にまで跳ね上がった。日に一、二パーティはこれまでもパラパラと参戦していたが、この日で一気に倍増以上だ。
この人員はどこから現れたのだろう? リュカバースから王都リュケイオンまで徒歩で六日はかかる。
ということは、借りにこの
だからこのタイミングで人員が増えるはずがない。増えるのは更に六日後でないと計算が合わないのだが……
「よし、ここからガンガン狩っていくぞ! 【
「応!!」
これを予定していたかのように出撃していく【
「考え得る最短を検討してみました、主さま。来訪当日に【
「そういうことね……」
フィンの指摘でラジィにもようやく裏の動きが読めてきた。
たしかにそれならこのタイミングでの増員は可能だろう。だが、
「【
そんなラジィの残る疑問はしかし、
「国内最大クランが全力投入するなら前へ倣えする冒険者も多いのでは? とイオリベは考えるのです」
お金に貪欲なイオリベの言葉に、ラジィはなるほどと頷いた。予備人員すら【
そして一度火が付けば、それは怒濤となっての大移動を誘発するだろう。魔獣ならぬ冒険者の
「まあ、でもこれで人員不足は解消できましたね」
「確かに。これでこっそりクィスたちを夜間に動かす必要はなくなってきたわね」
ホッとラジィとリリーは顔を見合わせて一息吐いた。どうやらここからは順当に森の魔獣を減らしていけそうである、と。
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