ファーレウスの森制圧戦(開催側)
■ 116 ■ リュカバース再建計画案は見直しを迫られました
さて、そんなわけで各ギルドから上がってきた要望一覧がラジィの手元に一手に集まってきたわけで、
「ふむ。流石に切磋琢磨が著しい仕立屋、染織、製靴ギルドは発展計画を出すのも手慣れたものね」
娼婦たちからの新しい要望に常々応え続けている連中である。
職人たちが絶賛デザインの競争中であるこの三ギルドは流石に反応が早く、真っ先にギルドの方針と要望を提出してきた。
内容は妥当だが、ラジィからすれば新色町をウルガータやブルーノが今後も中心に据え置くに違いない、という油断も見て取れる。
新色町は確かに現在ウルガータたちの主事業だが、今後もそれが永久に続くわけではない。そこまでは読み切れていないようだが現状では不満が無いし、ドンに好意的なギルドを現時点で責めてよいことは何もない。後の課題としておいてよいだろう。
「漁師、肉屋、粉挽は――まあ、増収計画を出しようがないわよね。これは逆にこっちからどれだけの人口増加に耐えられるかの試算を出させる方が早いか」
自分たちで品質向上が狙いにくいこれらのギルドにはラジィの方から質問し、どれだけその問いに答えられるかを基準にするべきだろう。
余った食材を小麦以外は長期保存しようがない現状、彼らに自発的な増産を強いるのは流石に哀れである。
「布屋、紡績は――大工ギルドと組んで道具の改良を目指す、か。具体的なプランはまだナシと。でもそれに挑戦し始めるのはいいことよね」
これまで通り、ではなく使いやすい糸車や機織り機を模索しよう、という意気込みは汲んでやるべきだろう。
研究には金と時間がかかるものだから、適当な建前を並べただけかも知れないが――そこを疑っては何も始まらない。
「石工、屋根工、鉄工も職人の育成に注力する、と。具体的な計画は――石工と鉄工は新色町のクイーンを参考に名誉マスターを認定して競争意欲を煽るか、まぁ二番煎じだけど悪くないわね」
新色町ではその一年で最も優れた遊女のみ一年間、紫のドレスを纏うことができる。一年間、奥様として全ての娼婦の頂点に立つことが許されるのだ。
それを真似して名誉を餌に職人に競争をさせる方針を取ったわけだ。目新しさはないが、方針としては悪くあるまい。
ラジィの中で新しいリュカバースの基本構成は既に構築されている。
ラティーナ河やそこから引き入れた運河の両岸は全て倉庫街とし、
それを念頭に置いた上で幾つかの区画整理案を【
「うん? 木材不足?」
【
「おかしいわ、そんなに森林伐採進んでたっけ? フィン」
「こちらにございますな、ラオ」
フィンが指し示し、ラオが運んで卓上に広げられた巻物は、十年ほど前に記されたカルセオリー伯領の大まかな地図である。
この地図を見る限り、リュカバースから国道を離れ北西に一日でも進めばファーレウスの森が広がっていて、そこは現在の、そして今後のリュカバースが発展するに足る樹木を育んでいるはずだ。
「うーん、この地図がある程度の正確さを備えているとして、どうやっても木材不足にはならないと思うのだけど」
「というか、
ラオにそう指摘され、言われてみればとラジィは首を傾げた。確かにラジィは【
それでも木材不足という結論が出るならば、理由は外ではなく内にあると考えるべきだろう。
「えー、どこに問題があるんだろう」
ひとまずラジィは【
【
だがその一方、ラジィの方から接続して内容を都度確認しないと、解答に至る過程が見えてこない点は明確な欠点だろう。
自動でやってはくれるのだが、その因果関係を筋道立てて示してくれるほど親切ではないのだ。ラジィが適時要点観測して初めてその理由が分かるのである。
「えーと、木こりの数は別に不足してない、けど――木こりが木を切りに行かない? なんで?」
ラジィは首を傾げるが、なんで? と聞いて答えてくれる【
というか音声入力に応えるような機能がないので、やはりここも手探りである。
「フィン、ラオ。木こりが木を切りに行かない理由って何だろう?」
そう問われたフィンとラオはしばし考え込んだ。切っても金にならない、はない。これからのリュカバースには木材が必要だ。
では切ってはいけない――もこの地図が正確ならそれもあるまい。まだ植林に勤しまなければいけないほどファーレウスの森の伐採は進んでいないはずだ。
であれば、
「行かないのではなく、行けないのではないでしょうか、主さま」
「なんで?」
「すぐ考えられる理由としては、魔獣が多い、であるな」
元
元よりリュキア騎士団には魔獣討伐など期待していない。だからこそこの国には冒険者ギルドがあり、ベクターのような冒険者が魔獣を討伐して回っているはずだ。
当然リュカバースにも冒険者ギルドリュカバース支部があって、そこが適切に魔獣の駆除を行なっているはずであるが――
「あれ?」
「どうなさいました? 主さま」
「冒険者ギルドリュカバース支部の人の出入りが全然ないの」
ラジィがこの資料室から出てきて以降の冒険者ギルドリュカバース支部だが、どうやらあり得ないほど人の出入りが少ないようなのだ。
これでは殆ど機能していない、と言ってもよいレベルで、一体なにがあったのかは――最近の【
ならばと過去の【
とすると、ラジィがこの資料室に閉じこもっていた一ヶ月の間に何かがあったとしか思えないのだ。
「……これは直接行ってみないと分からないわね」
そうラジィが腕を組んだところで資料室の扉がコンコンと叩かれ、
「はーいなにアウリス?」
『シンルーがいらっしゃってますよ。お茶でも一緒にどうかと。出てこられますか?』
「行く行くー!」
そのまま資料室を出て階下に降り、
「いいところに来てくれたわシンルー。頼りになる大人の随伴が必要なの、一緒に来てくれるわよね?」
「たっ……頼りになる大人……! も、もちろん大丈夫だけど見栄張った私はきっと重大な場面でやらかして幻滅されるに違いないんだ私知ってるんだ」
友達いない歴二十年のシンルーはチョロいもんである。
「はいはいそういう心配ないから一緒に行きましょ?」
そのままシンルーの手を取って、フィンとラオを引きつれたラジィは一路冒険者ギルドリュカバース支部を目指し――
§ § §
「はい? 活動できないってどういうこと?」
冒険者ギルドリュカバース支部のカウンターで固まってしまった。
「で、ですので……支部長が内部保留と共に行方不明になってしまって……クエストの発注ができないんです」
「はぁ!?」
どうやら冒険者ギルドリュカバース支部は完全に機能不全に陥ってしまっているようだ。
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