■ 111 ■ 磨かれて、澄みきったリュキアの水
新色町に繋がる第四上水給水地点に集まったのは、ラジィ、ティナ、シンルーと、
「と、いうわけで早速力を貸して貰うわよ、オーエン」
「御意」
新入りの元コルレアーニの護衛であった、
現状、リュカバース市民用の上水はラティーナ河の表流水を引き入れているだけで、伏流水や地下水に比べると水質でどうにも劣る。
しかし海岸都市であるリュカバースでは地下水の塩分濃度が非常に高いため、地下から水をくみ上げることもできない。
では水質を上げるにはどうすればよいか?
「ここからが
河の表流水を綺麗にするしかない、ということである。
既に上水路に手を加えることは新色町には通達済みのため、いったん給水のための水門を閉じて、
「見本を一つ作ってしまえば、あとは人手と人力でそれを真似るだけ。というわけで最初の一つは魔術で突貫工事、いくわよ!」
「ディ、ディブラーモールを継いだ私が今更ながらに憎い……」
「はいはい文句を言わない言わない!」
穴掘りティナと、
「ベストなのは六槽構造だけど、ここは五槽で我慢しておきましょうか」
「くっ、掘る方の苦労も知らないでぇ!」
「知ってるわ、知識としてね」
「ハッ、流石【
「あまり褒めないでよティナ。照れてしまうわ」
「褒めてなーい!」
何だかんだで文句を言いながらもティナがガンガン地面を掘り進むので、雑に掘った穴をオーエンが
「第一槽は着水槽、後で水流調整の格子を沈めるとして……第二槽は沈砂池だから、形が何より重要よ、宜しくねオーエン」
「委細承知」
オーエンが腰に佩いていた刀を抜いて地面に突き刺し、
「土の潤いに緑は芽吹き、土の温もりに産声唄う。土の連なりは山河となりて、土の重なりに社は会する。おお人よその立つ土に祈れよ、我ら等しく大地の仔なれば!」
「……貴方、ジガン流とやらはスッパリ辞めて職人にならない?」
「姉御、笑止ですぞ。ジガン流こそ我が命にして魂に御座いますれば。
「普通は逆なんだけどね、まぁいいか」
おまけに土の構造を変化させたのか、法面や側面、底面がモルタル形成まで行なってくれる始末。ラジィからしても文句の付けようがない。
「ジィ、これリュカバースの人足に真似できるとはとても私には思えないのだ。魔術抜きで二つ目を作るのは無理なのではないか? 無理だぁ無理無理だぁ……」
「う、後ろ向きになっては駄目よシンルー。そこはウルガータが考えればいいと思うわ。よし次、次作りましょ」
第三槽は第一ろ過槽ということで、
「ここには丁寧に砂抜きをした魔獣スライムをぶち込みます」
「あ、割と力業だ」
この日のために集めてきたスライムをバケツでポイポイと投げ入れる。
「スライム便利よスライム。だいたいのものは食べてくれるし。人も食べられちゃうけどね」
こいつらが地上へ出てくると当然面倒なことになるのだが――実はスライム、水より比重が重く水中では垂直な壁にへばりつけず上れなくなる、という特徴がある。
要するにここが水で満たされた後なら何も問題がなくなるわけである。
「子供が誤って落ちたら死ぬだぁ死ぬ死ぬだぁ」
「水路に子供が落ちたらスライムの有る無しに関わらず死ぬから大丈夫大丈夫」
「それ大丈夫って言っていいのかなぁ……」
それはラジィの知ったことではない。浄水施設の傍で遊ぶ子供が悪い、ひいては親の躾が悪いのである。元孤児たちならラジィの言いつけは遵守するし、どっちを向いても問題らしき問題にはならないだろう。後は自己責任だ。
その次の第四槽が第二ろ過槽であり、
「ここにハリー・ミッチェルに持ってきて貰った椰子の繊維、沸石、石英砂、炭と敷き詰めて……んー、定期的に洗浄が必要になるんだけど、まあそれは後回しね」
一度作成すれば暫くはろ過作用は維持される。以後は定期的に断水して洗浄の日程を組めばいいだろう。
「で、最後に貯水池に淡水魚を泳がせておけば終了、っと」
毎朝淡水魚の生存チェックを行ない、生きていれば水質に問題なし。淡水魚が死んでいたら緊急断水すれば人の被害は阻止できる、というわけだ。
これで一通り上水路の改良はお終いだ。
まだ蓋がないため安全と衛生の面では万全、完成とは言いがたい。
ただこの上水路を見本とする必要がある為、暫くは蓋せずこのまま運用することになるだろう。
「はい、では水門を開放」
水門を開放し、
「あとは第五槽に水が満ちたら淡水魚を放してお終いですか?」
「まさか、だったらシンルーを連れてくる必要はないでしょ?」
「え?」
キョトンとするシンルーを前に、なるほどと頷いたティナが一転して悪い顔になる。
「だぁよねぇジィのやることだもんねぇ。じゃああとシンルー頑張ってねぇ!」
「相変らずティナは性格悪いわね。でもまあお疲れ様、ティナもオーエンもありがとね。ここからはシンルーが何とかするから」
「なんでなんで何でぇ!?」
頭を垂れるオーエンと別れ、ニッコニコのティナと二人でラジィはシンルーを引っ張って教会へと帰還。
「さぁアミュレットを作るわよ?」
シンルーの出番はここからである。
「わ、私は道具作りの才能はミジンコの脳みその一欠片ほどもないって……アミュレットは諦めたんじゃなかったの諦めるべきだそうしないとラジィは絶望に打ちひしがれることになるのだやめておいたほうがいいのだ」
「諦めてなんかないわ。物理的な手段との合わせ技で何とかする、って言っただけよ。それに絶望している暇なんてないから大丈夫」
ごねるシンルーを傍らに、ラジィはこんなこともあろうかと再び用意しておいたクズ石屋から購入したクズ石を、
「我ら
サクサクと
「ハイじゃあシンルーも神殿作成、宜しくね」
「ジ、ジィは勘違いをしているんだ。人はそう簡単にアミュレットなんて作れないし作れるようになんてならないんだ。だからやるだけ無」「宜しくね?」
笑顔でずいいっと詰め寄られたシンルーは引きつり笑いを浮かべて天を仰いだ。
「汝、全てを懐く者よ。汝、全てを呑み込む者よ。汝、帆柱を折る者よ。汝、豊穣を運ぶ者よ。沈め、なずさえ、砕け、富ませ。四海の恵よ、三面六臂に氾濫せよ」
ラジィの部屋にシンルーの神殿が展開され、その上にラジィも己の神殿作成を加算、
「じゃああと、フィンもお願い」
「三重複合神殿は二重と比べて一気に難易度が跳ね上がるのですがなぁ。虚なる大空、輝ける日輪。天と地の狭間にまします
ぼやきながらもフィンが神への祈りのパスだけを強化する神殿を重ねれば、
「流石にこれだけやれば魔術の通りもよくなるでしょ。さぁシンルー。ここから延々と
ニコリと微笑まれたシンルーは色々と諦めた。
ああこれは
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