INTERLUDIUM
■ 102 ■ 至高の十人合同会談 Ⅱ
想像より時間がかかってしまいましたが、ようやく第二章が纏まったので連載再開します。時間はかかるかもですが完結まで書き切りたいと思っていますので、宜しければ再びラジィの巡礼にお付き合い頂ければ幸いです。
以下、凄く簡単なここまでのあらすじ。
適当に流れ着いたリュキアという小国の港町リュカバースにて中堅マフィアであるウルガータと手を組み、次いで元リュキア王子クィス、元ノクティルカ一族ティナと三人でエルダートファミリーを結成。そのままリュカバースの麻薬王ドン・コルレアーニとその護衛魔術師グラナをぶっ潰しリュカバースの街を手中に収めましたとさ。
残る巡礼の期間は3年8ヶ月。賎民たる孤児の出自故にリュキア貴族も敵、ノクティルカ国はリュキア(リュカバース)の敵、
はてさて十四歳になったラジィは無事に巡礼を成し遂げることができるのか?
ということで間章を三話ほど挟んだ後に第二章、はじまりはじまりー。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そんなわけでジィの奴はリュカバースって港町で一応元気にしていたよ。即行で
補給に反対票を入れた【
「ジィに
二本じゃ足りなかったか、と顎を擦る【
「ああ、それについてシン婆ちゃんにジィから伝言頼まれてる。『
そうツァディに告げられた【
「グラナ……あの男が倒れたのですか。それは喜ばしいことですが」
かつて巡礼の最中にグラナと相対したシンであったが、幾度となく再生するグラナを前に数多の騎士を失い、辛勝どころか相手が勝手に逃げたおかげで助かった体たらくだった。
あのままグラナが戦闘を続行していれば、恐らく自分は敗れていただろうという実感があったし、だからそんな怪物が――しかも人を麻薬中毒にして回る怪物が倒れたことそれ自体は喜ばしいことだ。
「……私の失態でジィに多大な負担を強いてしまいましたね」
だが、シンもラジィの過去を知っている。ダート修道司祭に麻薬漬けにされていた訓練兵Gの過去を知っている。
知っているから、あれの対処を結果的にラジィに押しつけてしまったことには胸が痛む。絶対にありえないことだが、後にラジィがあれを相手取ると過去に知っていたなら、刺し違えてでもシンはグラナを殺そうとしていただろう。
ラジィの前に巡礼に出ていたシンはラジィと最も接触が少ない【
「悪いことばかりじゃないさ。ジィにも信頼できる仲間ができたみたいだし」
ツァディが務めて明るくそう言ってみせたことから、一同は逆にラジィがグラナとやらに徹底的に苦しめられた事実を覚ってしまった。
ツァディは嘘が苦手だ。だからラジィの身の上に悪いことが降りかかったのだと分かってしまう。
即ち、あの人を殆ど信頼しないラジィが、嫌でも人を信頼しなければならないほどまでに一度は追い詰められたということだからだ。
「ジィ自身もグラナと相対できて良かった、って言ってたし。『一方的な救済の理不尽さがよく分かった』ってね」
その言葉にそっと顔をしかめたのは【
ラジィから救済を奪った己の正しさをカイは信じているが、それによってラジィは一生満たされることがない存在になってしまった。
世界の平穏のために、カイは今でもラジィを踏みつけにしている。理由はどうあれ、ラジィの不幸を望んで強いているのだから。
「それで、お土産は? ディー」
待ちきれない、とばかりにさっきからソワソワの【
「ほらよ」
投げ出されたローブを目にして、誰もが軽い眩暈を覚えた。
腹、背中、肩に腕。そこかしこに穴が空いたローブは、しかしラムが「ワイバーンの牙ぐらい余裕で跳ね返す」と太鼓判を押した頑丈さを誇るのだ。
「私が全力で織ったローブが襤褸切れ同然か。流石は腐っても
撥水素材で出来ているので血痕こそないが、その損耗からラジィがどれだけ無茶をしたのかがよく分かるというものだ。
「先にこれが手に入っていれば更にジィ向きのローブを編んであげられたのに。ま、それは言っても詮無きことだけどね」
防具の匠たる【
次にラジィのために編むローブは万人向けではなくなるが、逆にラジィ個人には更なる護りを与えてくれるだろう。
無論、次にラジィへローブを渡せるのは、ラジィが巡礼から帰ってきてからのことになるだろうが。
「それは早々に人目に付かないところへ仕舞っておきなさいよラム。見る人が見ればそれがジィのものと一目瞭然ですからね」
「はいはい分かってるわよテッド。人を考え無しみたいにいうのはやめて」
【
聖霊銀糸と結晶蜘蛛の糸で編み上げた子供サイズのローブを纏える存在など、このエリート揃いの【
その一握りの中で、そんなローブをボロボロにする激闘に身を投じたものなどここ最近では一人しかいないのだから、確かに一目瞭然だろう。
「フィンは元気にやっていましたか?」
ラジィと共に【
「ああ、ジィと一緒に嬉々として本や書類を領主の館から根こそぎ奪ってたよ」
「そうですか、それは喜ばしいことです」
その回答にどうして喜ばしいと返せるのか。【
だがザインにとって、人より獣の幸せが優先だ。思いやる心が人ではなく動物に向いているのがザインだ。そういう奴なのでザインは【
「剣も無事ジィに届いたか?」
「ああ、だけどいらなかったかもな。折れた剣はドワーフの手で槍の穂先に再加工されてたし。ジィが満足してたぐらいだから割といい出来みたいだぞ」
「へぇ。あの鱗は俺も削り出すのに苦労したんだが……いい腕してやがるな」
ヒューと口笛を吹いて【
「そうだ、あとサヌのアミュレットだけど、なんかジィが浄化した
「はて、そのような仕様を加えた覚えはないのだが……」
【
ラジィの意識がないときに自動で護るよう設定したアミュレットだったが、同じくラジィを護れと命令されていたカイの人工聖霊と融合。その場で最も確実にラジィを護るための最適解を選んだ、ということだろうか。
「これだから道具作りは止められんな。高度な道具は時として此方の意図しない振る舞いをする。実に興味深い」
今にも
ラジィの居場所はまだまだ秘匿しておいたほうがよい。シヴェル大陸外には
居場所が分からないことがラジィにとって最も安全なのだ。
【
「あとはジィが無事に帰ってくることを祈るのみですね。何やっても目立つ子だから不安だわ……」
額を抑えてそう呻くカイに、ツァディは励ますように笑ってみせる。
「まぁあいつ着々と引き篭もる準備進めてたし、大丈夫じゃないか? マフィアの後ろ盾で裏社会に引っ込んだし、表舞台にはもう立たないだろうよ」
マフィアと手を組むことのどこが大丈夫なの? と【
という理由を告げると一同は嫌そうに頷いた。
「ウチの腐敗も中々なものですが、他所の魔術師よりはまだマシのようですねぇ。ま、ウチも時間の問題でしょうが」
いつものように
「まぁ魔力持ちってのは銀のスプーンを咥えて生まれた存在だ、腐る理由には事欠かねぇだろうよ」
「だからグラナのような男が立場を得るわけですしね」
魔獣を倒すために魔術師は必要である。だがその存在は特権を生み、こう言ってはなんだがある意味必要悪になってしまっている面があるのだ。
「我々も気をつけねばなりません。既に
「【
研究には金がいるし、腐敗した連中が欲しがるのも金だ。だから研究を続けたいなら、彼らは【
だが、【
他人を欺き、蹴落とし、流言を流し、嘘を真のように語れる連中を掣肘することは、善良な集まりである【
「民あっての、民からの信頼とお布施あっての
カイの忠告に一同が頷いて、ひとまずツァディの報告会は終了である。
このまま、ラジィの身にも【
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