■ 100 ■ 書庫の天使は怠けたい




「はい、じゃあリュカバース麻薬撲滅の完遂と、私たちの勝利を祝って乾杯!」

『乾杯!』


 ティナの音頭に合わせて、それぞれが銘々にグラスを掲げる。


 今日は地母神教会リュカバース支部の礼拝堂から長椅子を取り払い、立食パーティーだ。

 どこかの店を借りて大々的にやる案も考えたのだが、先ずは内々で、という形に落ち着いた。

 あまり人を集めると、シンルーが本当に一人部屋の片隅でぶつぶつ言うだけになってしまうんじゃないか、というラジィの配慮である。


 そんなこともあり参加者はエルダートファミリーの面々にツァディ、ノイマン兄妹、ナガル、シンルーに中堅マフィアのボスたち、それとシェファ主従の十七人だ。


 机の上に並ぶのはアウリスが腕によりをかけて作った料理とのことで、


「端から順にル・ポタージュ・ド・セルリ・コンソメ・ド・ボライユ、ル・ポタージュ・ド・ムートン・ラングレーズ、ル・カビヨ・ア・ラ・クレーム、ル・タルボット・ソース・オ・クルベット、レ・メルラン・フリ・ア・ラングレーズ……」

「……さっぱり分かんねぇ」


 順に説明されてもウルガータの頭には何も入ってこない。というかブルーノ以外のボスたちも同じである。

 お貴族様の料理なんて食べるのは実際これが初めてで、正直食べ方もよく分からないぐらいだ。アウリスは好きに食べればいいと言うが……


「今後は貴族との付き合いとかもあるんだよな……」

「頑張れよ、ドン。応援だけはしてやらぁ」

「おう、窮屈な服も我慢して着続けてりゃあ身体に合うってもんだ」

「ドンの責務だからな、精々真面目に学び直すこった」


 ハリー、チャン、アンニーバレにそう冷やかされたウルガータは不満そうに、小海老のソースがかかった舌平目にフォークを伸ばす。


「本当にアウリスって何でも出来るのね……」


 成程、これはティナも自信をなくすわけだと少しラジィも同情してしまう。

 というかなんで侍従のくせにシェフ顔負けの料理ができるのか。聞いてみたところ、「面白そうなので教わってみた」とのことで、こいつ何なんだと知育担当の筈のラジィすら呆れてしまう。

 これは面白そうだから、と言うレベルでできる料理ではないはずなのだが……気にしたら負けなのだろう。そう考えてド・フィレ・ド・ポワッソン・ア・ロルリー魚のフライ、トマトソースがけに手を伸ばす。




 幸いラジィの身体はツァディの持ってきた霊薬エリクサーで快癒していたため、あれからせっせとポーションを増産。加えて御厨コクイナ加護をかけた料理を振る舞ったラジィのおかげで、三日も経てば全員が元通りの健康体を取り戻した。

 グラナの死体は、ナガルが焼いて遺骨はリュカバース墓地の一角に埋められた。墓石には、


身献神サクリコラに殉じたグラナ、家族とともに眠る』


 と彫られている。本当に家族とともに眠れているかは定かではないが。


 ドン・コルレアーニの死体はウルガータの部下が回収して闇へと消えた。負けたマフィアに墓など不要、というのがリュカバースの流儀だそうだ。

 元より僑族は海向こうから来た異邦人だ。だから墓を作るより海に帰してやる方が親切だ、ということらしい。

 まあ、半分はその通りで、残り半分は「墓なんぞ作ってやるわきゃねーだろコノヤロー」の精神よね、とラジィは思っている。当たらずとも遠からずといったところだろう。




 教会に居候し始めたツァディに対しては当初、勝手に妹分を奪ってしまったということでティナもクィスも戦々恐々だったのだが、


「帰る家か。確かに俺もカイ姐さんもそこまで考えられなかったな。俺たちにとっては【至高の聖域サクロ・サンクトゥス】が家だったから」


 そう納得したツァディに感謝されて、三者が交わした義兄弟の契りはツァディにもごく自然に受け入れてもらえたようだ。これにはティナもクィスも胸をなで下ろした。

 ただ、


「クィスはもう少し強くなっておいた方がいいな。鍛錬しよう。俺も付き合うからさ」


 嫌味でもなんでもなく、純粋な善意でツァディに拳闘の稽古を付けられることとなったクィスは毎日ボコボコにされていた。どうせラジィのポーションで治せるので、本当にボコボコである。

 これ本当に嫌がらせじゃないよね? とクィスは疑問に思ったのだが、クィスの後にラジィもクタクタに(ラジィにはラジィのポーションが使えないので)されていたので、どうやらツァディのそれは本当に善意なんだと知って絶望した。

 それはツァディの、「ラジィには自衛ができる強さを、クィスにはラジィを守れるぐらいの更なる強さを」というツァディの曇りなき願い、好意の発露だったのだ。


「……ジィが強くなった理由がよく分かったよ」

「……理解者が増えて嬉しいわ」


 夕食の前ぐらいになるともう疲労で腕が肩から上にあがらない。風呂で頭を洗うのは無理、というレベルでの、ほぼ訓練の皮を被った実戦である。

 なお、ティナは「わ、私は支援担当の穴掘りモグラなんで!」とほざいて一人鍛錬から逃げようとして、


「長女なんだろ? 人質とかにされたらジィもクィスも困る。最低限はやれるようになっておいたほうがいいよ」

「ヒィ!」


 ツァディに回り込まれてやはりボコボコにされた。情けない長女である。


 ただ、ツァディの道場アリーナバフがモリモリのため、日に日に強くなっていく自分が実感できたのはティナとクィスにとって不幸中の幸いだろうか。

 実際、伸びの速さだけでいえばラジィより上だろう。


「まぁ、ジィの道場アリーナ適性は他の九つの適性と比べると著しく低いからな」

『え!?』


 ティナもクィスも耳を疑った。アホほど強いラジィであるが、その才能は徹底して戦闘向きではなかったという衝撃の事実を知って愕然としたのである。

 なお、その逆にツァディは道場アリーナだけが群を抜いていて他の適性はほぼゼロだそうだ。これには二人も納得したが。




 今のところ、リュカバースは平穏そのものである。

 裏社会のドンがウルガータに代わったことは、概ねリュカバース市民に好意的に受け入れられた。


 というのも理不尽な理由で新色町の娼婦たちがリュキア騎士に逮捕されたのを最も怒ったのは、リュカバースを母港とする船乗りたちだったからである。

 ウルガータが大枚を叩いて彼女たちを買い戻したことで、娼婦たちからのウルガータへの信頼は揺るぎないものとなり、ひいては船乗りたちからもウルガータは信頼を勝ち得たのだ。


 逆にいえば、ろくな理由も無しに娼婦たちを誘拐同様に連行したリュキア貴族に対する不安と不満は、リュカバース市民の間に積もりに積もっていた。リュキア騎士の横暴は今回が初めてではなく、似たようなことはこれまでに何度も行なわれていたから、市民たちからすれば他人事ではないのである。

 そんなタイミングでリュキア騎士全員をウルガータファミリーがワンパンした(のはツァディだがそんなことは市民には分からない)おかげで、もはやウルガータは完全にリュカバース市民の味方として歓迎されたのだ。


 シマの民を守るマフィアは良いマフィアだ。搾取だけして守らない貴族は悪い貴族だ。この流れは止めるべきではない、というのは誰の目にも明らかである。

 正直、麻薬の収入もないし少し絞り取る額を増やしたいなと思っていたウルガータの出鼻は挫かれたが、まあそれはいいことだろう。


 なお領主たちがリッツォーリファミリーの貧民街でもがいているその日のうちに、ラジィはツァディとマフィアのソルジャーを連れてカルセオリー伯邸を強襲、占領。

 記録や手紙、書物の類いを洗いざらい押収し、コルレアーニとカルセオリー伯の蜜月の関係を示す証拠はあらかた確保してしまっている。

 カルセオリー伯アンティゴナがウルガータに反逆するようなら、これを王都及び隣接貴族家に送りつけるのみだ。


 他領に麻薬をばらまいて儲けようなんて考えていたことが他の貴族にバレればアンティゴナのリュキア貴族としての人生は終わる。

 後は適度に飴と鞭を使い分ければアンティゴナも口出しはできず、実質的なリュカバース支配はマフィアたちの手で円滑に行えるだろう。




 ドンのアジトも徹底的に家捜しをして、ウルガータをドンとする元中堅マフィアたちは麻薬の生産地、精製工場、輸入ルートに販売ルートまでを把握。

 この期を逃さずそれぞれのソルジャーを全投入して麻薬関係者を徹底的に拿捕、組織解体した。


「さあ焼くのよナガル! クィス!」


 そこから得た情報を元に船で向かった先に拓かれていた、原料であるケシの実畑はラジィ監修の元、ナガルとクィスが徹底して焼き払った。


「フフッ、アハハハハハッ!! 盛大に燃えると気分がいいわねぇディー、ルガー!」

「ああ全くだ! 清々するよなぁ!」

「最高にハイってヤツだなぁ。さぁどんどん灰になっちまいな! いい肥やしになるからなぁ! フハハハハハッ!!」


 麻薬が嫌いなラジィ、ツァディ、ウルガータの三人が燃える畑を前にして高笑いしている様に、ナガルとクィスはちょっと引いていたが三人は気にしない。大喝采だ。

 そうやって残った土地はヤシ畑にすることで合意した。今後石鹸の生産量が増えることが予想されたため、油が大量に必要になると判断したのである。


 ヤシ畑としての再開発は職人などが移住してしまってみかじめ料が少ない、ハリー率いるミッチェルファミリーが主に担当することになった。

 再開発が終わればミッチェルファミリーもヤシ油交易で懐を潤すことが出来るようになるだろう。




 マフィアファミリーによるリュカバース分割支配だが、コルレアーニを含む大規模組織が壊滅状態のため、再編は中々に手間がかかる。

 幹部を失った大規模ファミリーの吸収と反抗分子の淘汰、粛正。能力に応じた人員の割り振りと監視にはブルーノが辣腕を振るっている。

 また魔術師を持たない、生き残った弱小勢力のボスたちを上手く宥め、使い、時に鼻っ柱をへし折るなど、今後はウルガータらの手腕が問われることになるだろう。


 高級娼館を含む貴族街周辺はアンニーバレのリッツォーリファミリーが担当することになった。

 本来ならワリの良いシマなのだが、高級娼婦クルチザンヌの稼ぎ頭であったミザリーが、ドンが死んだと知るや狂ったように笑い、高級娼館に火を付けて自らもまた炎の中に消えたとあってかなりの打撃を受けているのだ。

 半数以上の高級娼婦クルチザンヌが火災に巻き込まれて死亡、残る娼婦たちも娼館跡を見るとパニックに陥る、と後遺症も馬鹿にならず、中々に再建が難しい。


「私も僑族だし、もう高級娼館は懲り懲りさ。生き残りを纏めて上手くやんな」


 と一番効率よく再建できるだろうシェファが匙をそもそも掴んですらくれず新色町に引き籠もってしまい、ウルガータとしては当てが外れてしまう。

 現時点における主な客が選民主義に凝り固まったリュキアの裕福層である高級娼館は当然、娼婦もリュキア国民から揃える必要がある。故に典型的な僑族であるチャンやハリーではまず手を付けることすら難しいのだ。

 アンニーバレは「はてさて金のなる木か、それとも厄介ごとを押しつけられたのか……」とぼやきながらこれを了承した。


 腐りに腐っている港湾の文官らもこれを機に徹底して『消毒』し、古い血は可能な限り排除する。

 港はリュカバースの要である。そこの管理者は当然カルセオリー伯の息のかかった連中が多かったため伯らは難色を示したが、ツァディがグッと拳を握ることで円満に解決した。やはり暴力は全てを解決するのだ。


 港湾の管理は、ひとまずチャン率いるロンジェンファミリーが担当することになった。元々舶来品で身銭を得ていたこともあって、海外とのやり取りになれていたからである。

 もっとも一ファミリーに港を全て任せるのは危険なので、ウルガータ、レンティーニファミリーからも人を出してはいるが。


 救いようがないリュキア騎士団リュカバース駐屯部隊は正直矯正が不可能だったため、「市民を苦しめる悪役」として残すこととなった。

 無論、ラジィやウルガータとて進んで残したわけではない。あくまで苦渋の決断である。できることなら排除したかったが、リュキア貴族と騎士を排除すると国を敵に回すことになる。


 なんとか矯正を、とツァディも頑張ってみたのだが、長年続いたリュキア選民主義の根底だけはどうやっても拳だけでは治せなかったのだ。


 それにこれらを絶滅させても、後からやってくる騎士だってどうせ同じような連中なのだ。

 ならばツァディの拳の痛みと恐怖を知る連中のほうがまだ大人しくしているだろう。少なくともこれまでのような「領主認定の山賊」まがいのやりたい放題はできないはずだ。


 これの抜本的改革はリュキア貴族全体が襟を正さねば無理なのだ。言いがかりで市民を牢屋に放り込めていたような状態は改善できたので、今はとりあえずそこまでで我慢するしかない。

 まこと、本当に百害あって一利もない連中である。




 あまり長居すると【至高の聖域サクロ・サンクトゥス】に疑われる、ということもあり、一ヶ月ほどでツァディはリュカバースを離れることになった。


「連絡がある時はここに手紙を送れってさ」


 カイ・エルメレクの親戚の住所を指定されて、ラジィは頷いた。

 そこに偽名なりウルガータの名なりで手紙を送れば、その内容をカイにのみ伝えてくれるらしい。地母神教マーター・マグナとは関係ないカイ個人の伝手であり親戚なので、裏切られる可能性はまずないとのことだ。


「カイ姐さんもジィのことを心配して、立場が危うくなるのを承知で補給を贈ってくれたんだ。そのことは忘れるなよ」

「分かってるわ。カイにありがとう、元気でやってるって伝えておいて。他の【至高の十人デカサンクティ】の皆にも」


 ラジィの元の装備は、ドン・コルレアーニのアジトを家捜しした際に無事回収できた。

 そのうちのローブのみツァディに預け、今のラジィは【納戸ホレオルム】ラム・メドムが新たに用意した同じ素材のローブを着ているが、


「……やっぱり、少し大きいな」


 何故か十三歳のラジィに合わせて縫ったはずのローブが、今のラジィには少しだけ緩い。

 というのも、神化を遂げる際にラジィから突き出てきた翼。あれはラジィの肉体が変形して作られたものなので、翼を切り落としてしまった分だけラジィの身体は体積が減ってしまっているのだ。

 よって今のラジィは、外見的には十二歳程度の子供にしか見えなくなっている。即ち【至高の聖域サクロ・サンクトゥス】を出た時より外見的には幼くなってしまっているのだ。


「ん? ということはジィのヤツ……」


 ラジィが前にも一度神化降臨していることを知っているウルガータが訝しんでいると、


「お察しの通り、主さまはディーと幼なじみなので、実はほぼ同い年なのだそうです。カイに弟子入りした時点で、見た目と実年齢が合わないので年齢詐称したそうですよ」


 フィンがウルガータにのみ聞こえるようにそっと耳打ちしてくれた。成程、とウルガータは納得する。

 ただ身長が縮むだけでなく全体的な容姿まで若返っているのは不思議だが、多分容積に相応しい外見に再構築されたのだろうと聞いて、改めてラジィは人間じゃないのだな、と痛感してしまう。


 桟橋。見送りに来たラジィの肩に両手をおいて、ツァディが真剣な眼差しで蒼色に戻ったラジィの瞳を見つめている、というか肩を掴んで睨んでいる。

 ラジィと目線を合わせるにはツァディは今や膝立ちしないといけない程、両者の身長には差がついてしまっていて、


「いいか、もう二度と『あれ』はやるなよ。分かったな」


 一連の裏事情を把握すれば、ツァディがしつこく念を押すのも当然か、とウルガータからすれば納得だ。


「分かってるわよ! もう、何度も何度も! しつこい男は嫌われるわよ!」


 プイと顔を背けるラジィから視線を外し、ツァディが今度はティナとクィスの方を見た。

 それが「次にラジィが縮んでたら姉兄であるお前らの責任としてブン殴る」の意であると分かった両者は震え上がってコクコクと頷いた。


「四年したら迎えに来るよ。嫌ならその時までに俺を倒せるほどに強くなっておけ」


 いやそれ無理、と呆れるラジィの額に口付けをして一度ラジィの頭をくしゃりと撫でると、ツァディは踵を返して客船に乗り込みリュカバースを後にした。

 その迎えに来る、が地母神教マーター・マグナになのか、それともツァディ個人の隣になのか、はたしてどっちだろうとティナは思考を巡らせる。


 もうツァディはラジィの兄貴分から解放されたのだ。後者である可能性も否定は出来まい。

 態度からは、どっちなのかさっぱり分からなかったが。


 船影が見えなくなるまでずっとツァディを見送っていたラジィがツァディのことをどう思っているのかも、ティナにはいまいちよく分からない。

 幼馴染なのか、兄妹なのか、仲間なのか、恋をしているのか。もしかしたらラジィ自身も自分の感情がどれに類するのか、分かっていないのかもしれない。


「ジィはディーさんのことをどう思ってるの?」


 正直な答えが返ってくるかは別としてティナが試しに聞いてみたところ、


「宿敵よ。私の大事なものを何もかも奪ったのがあの男なんだから」


 ラジィはフン、と怒ったようにそう言うが、はてさて。これはどこまで本気の回答なのやら。




 リュカバースの街はウルガータをドンに据えて回り始めた。ウルガータもブルーノもシェファもハリーもチャンもアンニーバレもそれぞれに忙しそうだが、リュカバース在住マフィア間の抗争はこれで一段落だ。

 ノクティルカ特殊部隊の火祭りに端を発したラジィの用心棒家業も、然るにこれで一段落である。


 よって、


「水良し、堅パン良し、本良し! 全部ヨシ!」


 地母神教会リュカバース支部の資料室には今、大量の本が床を埋め尽くす勢いでうず高く積まれている。

 これらはカルセオリー伯邸を強襲、及びドンのアジトを家探しした際にソルジャーに命じて回収させたものだ。強奪したものとも言うが。


「さあ引きこもるわよ!」


 人足としてこき使われたウルガータの左腕バルドはやはり散々嫌そうな顔をしていたが、ラジィはそういうのは気にしない。

 元より、他人から好かれようが嫌われようがわりとどうでもいいのだ。


 ラジィ・エルダートは天使であり、人を救う為にこの世に生まれ落ちながら神にはなれず、その余生には意味がない無価値な存在でしかないのだから。


「漸く私たち本来の生活に戻れるわね」

「はい、落ち着いて本が読めますなぁ」


 それでも、こんな本を集めて自室に引きこもる怠け者でも、もし生きていて欲しいと願ってくれる人がいるなら――


「あぁ、これはこれで幸せなのかもね」

「盛大にサボりながらそのようなことを言うつがいは大物よの」


 ニヒヒ、と笑いながらラジィはラオを肩に乗せ、床に腰を下ろしフィンを背もたれにしながら、手近にあった本を手にとって最初の一ページを開く。



 しばらくは、もう何もしてやらない。



 書庫の天使は、ゆるりと怠けたいのだ。




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