■ 056 ■ 至高の十人合同会談
真っ白な円卓に十の椅子が用意された、【
「ジィが消息を絶ってからこれで一年が経過したわけですが、相変らずその後の連絡はありません」
【
即ち心配そうな顔、興味のなさそうな顔、まぁそうだろうなという顔である。
「便りがないのはいい返事っつぅだろ? いくら弟子だからってもうあいつも一人前なんだ、もう少し信用してやったらどうだ? 【
そう呆れたような口調で忠告する【
ラジィの生死が不明という状況をある意味肯定的に捉えている。
「俺だって巡礼はこっそりやってたしな。位置を把握されるなんざ煩わしくて仕方ねぇ」
「それは貴方が興味のあること以外何もやらない趣味人だからでしょう、【
こっちはこっちでアレフベートに呆れているのは【
好々爺のような風貌のサヌアンが最初に浮かべた顔は二つ目、つまり興味なしで、というのもカイたちが捜索したリグレフォティス古戦場からはサヌアンがラジィに贈ったアミュレットの中枢たる封魔石が見つからなかったからだ。
あれがまだ機能しているならラジィがそうそう倒れることはあるまい、という半分自画自賛、半分信頼故の判断である。
「ラジィは貴方よりもう少し真面目ですよアレフ。困っている人がいれば放っておけない性質のはず。そのラジィの噂が一切ない、となると」
「
「あの時点のジィだと
過不足ない、完璧な読みである。ここまでツァディの予想が完璧に正鵠を射ているのは、
彼女がどういう戦術を好み、どう戦うかは戦場跡を見るまでもなくだいたい予想できる。
剣の消費もそうで、ラジィは使い勝手がいい道具から先に使っていくから、粘りと堅さと魔力伝導のバランスがよい竜麟の剣を最初に使い潰すとツァディは確信している。
次に長期戦における魔力消費をなるべく節約しようとして緋紅金剣を使用し、専用剣はトドメまで温存しておこうとする。そういうスタイルまでツァディには手に取るように分かる。ラジィの性格を熟知しているからだ。
「穴だらけか。ならそれ以上ボロボロになる前に回収したいわね。ダメージコントロールの参考になるし」
【
「お前防具じゃなくてジィの心配をしろよ」というツァディの視線にも気付かず【
「いずれにせよ、ジィは私たちに決して足取りを追わせたくはないようですね……」
【
如何な理由があろうと、ラジィが【
正直に言えば、
これだけのことを成し遂げれば後はラジィがどこでなにをしていようと
「そりゃあ、口さがない連中ばっかりですからね。雑魚の方々は」
ニコニコした穏やかな顔で辛辣な毒を吐くのが【
特徴がないのが特徴のような凡人顔なのにテッドの顔が記憶に焼き付いてしまうのは、全てこの特徴のせいと言っても過言ではない。
「弱者を気取ればいくらでも一方的に強者を叩いてもいいなどという思考、いやはやどれだけ賤しい頭なら捻り出せるのやら。そんな腐った野菜屑にも劣る腐肉がおぞましくも
テッドのその言葉はどこまでが本気かは不明である。
というのも農地改良が専門のテッドはその仕事上、ローブなど邪魔だしすぐ汚れるとあって纏うことがそもそも少ないからだ。
「その程度の博愛しか持てないからジィを上回れない、それが分からずによくも
「その辺にしてください【
【
彼女としてはこれ以上会議が無駄に延びるのを何としても回避したいのである。ザインは病的な動物好きを自称しており、四六時中動物の毛並みを撫でていないと蕁麻疹が出る、というのがザインの言である。
本当かどうかは定かではないが。
「フィンが戻ってきてない以上はラジィは無事ですよ。もうそれでいいじゃないですか。それに政治は【
「【
堅物を絵に描いたような顔の壮年、【
【
政治家でも支配者層でもない以上、組織の効率的な運用のためには補佐役が必要で、そういう補佐役はだからこそ、政治的能力に長けている。
彼らにそっぽを向かれると
しかし腐敗は、そういう「ある程度の配慮」の中で進むのだ。
だからラジィは【
おぞましい話だ、と残る九人は温度差こそあるもののそれぞれなりの思考で頭と心を痛めた。
そう、地位と権力こそ全てと思っている一部の組織人には「上の連中を引きずり下ろす」ことに腐心している者が少なからず存在する。
どのような組織にも一定数、そういうことに注力する連中は潜んでいるものだ。そしてそういう連中は、立場の弱い者をこぞって狙い撃ちにする。
「いずれにせよ装備の破損が予想されているのなら、補給を届けては如何かな? ジィも見知らぬ土地にたった一人、かつ穴あき防具に予備の武器無しでは厳しかろうに」
「それはそうですが、一体どこに届けるのです?」
極めてまともなカイの突っ込みも【
「そんなもの、ディーにでも追わせればよろしかろう。ディーならある程度ジィの行動に当たりを付けられるのではないかな?」
「あ、私もそれ賛成。新しいローブ縫うからさ、穴あきになった古いの回収してきてよ」
「ハン、なら俺も竜麟からもう一本削り出してやらぁ。届けてやんなディー。それでカイが安心できるなら安い話じゃねぇか」
【
というよりラジィに補給物資を送ることそれ自体に反対する【
愚民がどれだけ愚考しようと、彼らはそんなことには毒されない。それこそが【
「ですが一般の信者や同行者ならさておき、【
だが、それはそれとして【
【
他の【
だがそんな政治的配慮を嘲笑うかのような、
「
【
――
それが
十四才の少女に難き道行きを歩かせ、安寧を与えられないというならここにいる全員が【
なにせそれをやってしまったら、自分たちは
【
【
それらを全て無視してディーに全く成果が出ないことが予定されている謎の遊撃任務を割り振るのは、反対と非難が数多上がるであろうが――
「では、【
【
【
【
【
【
【
【
【
【
【
「賛成六、反対三、棄権一により【
「畏まりました、【
そうして、新たに作られた竜麟の剣とローブ、
「先ずは最初で最後の手紙が投函されたっていうカルベッタの街だな」
無駄とも言える最強戦力の使い方に【
しかし火種は確実に燻って、そして埋もれただけで消えてはいない。いつかそれは大火になるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。
先の予測を得意とする【
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