第8話 再会

朝目が覚めると、ベットを降り、家を出て伸びをする。


 いつもの習慣化した日常だ。 だが、その日はいつもの日常とは少し違った。


 家の扉の近くにある樹に寄り掛かり寝ている『ある鳥』を見つけて僕は呆然とする。


 記憶の奥深くにしまっていて記憶だ、その記憶に残っている鳥とは体毛の色が違うが、完全に別個体とは言えない。


 あの時見た鳥の種類も名前も分からないが、記憶の砂嵐が吹き荒れ、ある女性の顔が見えた。


 昔、森でシンシアと遊んでいた時まで遡る。


 村では、外から来た人が根付く時に娘や息子を聖樹様に会わせ、神子又は巫女見習いと呼び森の加護を定着させる為に聖樹様が祝福を与えてくださるのだ。


 それで、巫女見習いとなったシンシアと共に森で遊んでいた時に、樹に寄りかかり、血を流している一人のハーピィの女性を見つけた。


 シンシアは村に知らせてくると言い、森を出て、結局帰ってこなかったが。 だが、僕は女性に近寄った。


•••


 女性は大人の女性になりきれて無い容姿をしており、傷ついた身体で動くに動けず、唯一残った右目を閉じ思考していた、額から左顎まで深く斬られた傷と左脚を切断され今尚、どくどくと血が、命が、流れていくのを認識し、これからどうしようと、思考していた時だった。


 目の前の茂みから、かさっ、かさっと揺らぎ擦れた音から、背丈が子供である事が解る、そして、ゆっくり近付いて来る。

 

 女性は小さな子供の命がここで自らの手で消える事を夢想し可哀想に思いながら、魔法で風の刃を作り待つ。


「かさっ」まだだ

  「かさっ」まだだ

   「かさっ」あと一歩!


 次で首を刎ね飛ばすと思考していた時、子供の方から声を掛けて来た。


 「痛そう、大丈夫?」

 子供らしく幼い声に不安を混ぜた色をしていた。


 そこで漸く、ハーピィである女性は右目を開け、子供を見る。


 すると、少年の手には止血草と薬草を持って女性を見ていた。


 女性は少年の瞳を真っ直ぐに見ると、そこに映されているのは痛々しく血に染まった自分の姿だった。


 (この子は、本当に私を心配していたんだ)


 そう思うと申し訳なく、悲しくなり、魔法を霧散させ、漸く女性は先程の言葉に対しての返答をした。


 「とても痛いです、泣きそうな程に、ですが、私に近寄っては行けません、此処から離れなさい。」


 辺りには血の匂いが充満しており、モンスターや知能の低い魔獣が来る事を危惧し、女性は少年に立ち去る事を勧めた。


 少年は泣きそうな表情をしながら女性に近づき、血で汚れる事も厭わずに彼女の脚への応急処置を始めた。


 「駄目です、私は此処で仲間の助けを待っているだけです、翼も無事です、ですから離れなさい。」


 実の所、女性は左脚が欠損した事でハーピィの姿ではもう飛び上がる事が不可能になっていた。 ハーピィの飛び方は翼で羽ばたき、その慣性と身体の弾力をバネにしてジャンプする様に飛ぶのだが、脚を失った同胞はもう飛べない為、置いて行くのだ。


 その為、女性は自分の末路を知っていた、元々、山岳地帯の岸壁などに住む種族であり、森へ来たのは森へ入る中間地点に人間の集落があり、そこの人間に仲間が襲われているのを助けたが故に起きた傷であり、そして負傷したまま囮になる為に、復讐する為にわざわざ森は入り見える様に樹にもたれ掛かっていたのだ。


 人釣りと言う罠だ、その人間が飛び道具を惜しみ、接近して来た時に魔法で殺そうとしていたのだ。


 それが、罪も無い人の子が釣れてしまい、生き餌となった女性を手当している。


 その行動に女性の罪悪感と焦燥感だけが高まり募っていく。


 「早く逃げなさい、この森には危険な魔物が多い、君もだべられてしまう、早く!」


 女性は翼をバタバタと動かし急かすが、少年は涙目で震えながら、女性の右脚の鉤爪で衣服を引き裂き紐にして薬草と止血草で覆った左脚を縛っていた。


 「女の人を放って逃げたら、クマ師匠に! カマキリ師匠に! お父さんに怒られる! それに僕が嫌なんだ!」


 そう叫び女性の顔を見て叫んでいた、その顔は恐怖でぐちゃぐちゃに歪み、涙が流れて落ちていた。


 女性はこんな人間もいるのかと少年を心と記憶に刻み、自分に叱責と、侮蔑を心で浴びせる。


 


 当時の女性と少年の知らない事だが、先程の師匠と呼ばれていた蟷螂と大熊と呼ばれはしなかったが大狼が少年達に近寄らせんと血に引き寄せられたモンスターを血祭りと言う言葉が似合う程の虐殺し、其方の方に釘付けにしていたのだ。


 当時未熟だった女性と少年は決して気付かないのも無理は無かったのだ。


 そして、虐殺が繰り返されてる中、女性と少年達は、少年が女性を即席の背負子で背負い森を抜け出し、少年の村へ帰ったのだ。


•••


記憶の嵐が止み終わると完全に思い出していた。


 あの時の鳥へ変わった女性に似ているのだと漸く思い出したのだ、 だが、あの時の鳥は茶色、黒、白の斑らな体毛だった筈で、今目の前に居るのは、純白でキラキラと光り、翼の羽先の部分だけが黒く艶めいている鳥ではなかったと記憶しているのだ。


 僕はうーんと首を傾げていると、鳥は起きたのか身を揺すり目を開けて此方を見て嬉しそうに「クルルル」と鳴き、翼をバタバタして身体を前へ擦る様に動かし近付いて来る。


 そして近くまで来ると、魔力の燐光を放ち、姿を変えていく。


 ハーピィの姿へ完全に変わると、見覚えある容姿だった。


 「お久し、ぶりで、ございます、あの時の僕君」


聞き覚えのある凛とした綺麗な声、光によって赤茶色から茶色へ変わる髪、その髪で隠しきれてない額から左顎まで伸びる傷跡に、装飾品の時に見たイエローサファイアの透き通った瞳に、最後の最後に記憶に色濃く残る斬られて失った左脚の切断面。


 間違いなくあの時の女性だった。


 「あの時のハーピィさんでしたか」


 僕には奇跡の再会であった。

 

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