第6話 【絶死の魔森】の女性達に聞いてみた

【絶死の魔森】にとある獣人の女の子がいた。

 背丈は140cm位の身長しか無く、朝露に濡れた菫の色の髪にちょこんと生えた小さな三角形の耳に小さい顔にアメジストの綺麗な瞳。 大人の余裕の様な落ち着いた優しい表情を浮かべた大人と少女を足して割ったそんな雰囲気を持った少女が、アラクネ達の集落に訪れていた。


 アラクネと言えば、女性と蜘蛛が合体した様な見た目だが、彼女達を表すならそう、『誇り高い』この一言。


 弱い者や病気の者などを下がらせ、アラクネ糸製の弓や仕掛け罠などで遠距離から仕留める密林の暗殺者、接近すれば蜘蛛の脚に付けた可変式のブレードで切り裂き、二本の十字槍に伸縮式の糸を付けた射出銛をぶん回して戦う、そして、自分達が勝てない相手には自分の身体に猛毒を撃ち込み、相手諸共の自滅特攻スーサイドアタックを仕掛け必ず殺しにくる、それで死ななかった竜種は黒竜だけである。 その黒竜も【絶死の魔森】でそれを体験し、二度と行きたくないと心に誓う程恐ろしい場所だ。


 そんな森の暗殺者集団である。


 【アラクネの里】


獣人の少女の前には三人のアラクネ女性達がいた。

 「では、聞きたい事があるのですが、良いです?」


 獣人の少女はとある女の子から聞かれた事の答えが知りたくてこのアラクネの里に来ていたのである。


「ええ、どうぞ」

 

 アラクネ女性達も井戸端会議並みの話やすさを醸し出しニコニコとして『いた』


「はい、では質問です。 人間のオス達は人間のメスに子を産んでもらう為に貢いだり、群れを作って戦うそうですが、オスがメスを庇って死ぬ事に対して何か思うことはありますか?との事です。」


 アラクネの女性達は瞳孔が開ききり青筋を立て胸の前で腕を組んでいた手からもギチギチをする位にキレていた。


「あぁ、あるある肥やしにして撒きたい位にあるわよ」

「そうよねぇ、アイツら寄生虫より嫌な虫よねぇ」

「誰の質問なのかしら?」

 アラクネ女性陣ブチギレ案件である、コレを聞かれた獣人の少女も牙を剥きキレる質問である。

 獣人の少女はうんうん、と頷き答えた。

「ティティちゃんです、心底何で死なないのって顔しながら」

 

 ティティの闇は深い、小さな頃から自我を持ち母親にぞんざいに扱われ、捨てられた少女、そしてそれより長く酷く扱われた父親への扱いにも常時ブチギレ状態の深淵の瞳。

 そしてミリムから呆れた様子で語った冒険者達の常日頃の扱いにである。


 頭がおかしくなりそうな位に冷めた瞳を同性女性へ向けるのだ、ミリムはそれをみて他の人達に聞いて見ると良いと伝えたのが今回の案件である。


 アラクネ女性達もティティの事を気に掛けており、よく来るハーピィ達が良く話に来るので状況は知っているのだ、そしてその視線を向けられた事のあるハーピィ女性は半泣きになるまでその視線で理由を問われ続けて若干トラウマになった。


 それにティティには尊敬の視線向けられるアラクネ達である。 そんな女性達のうんうんと頷き、快く答えた。


「戦えないメスは家を守ってろって本気で思うわね」

「育児すらしてないとティティちゃんをみて思うわねぇ」

「アマゾネスって部族は違うらしいわよ」

「あの部族は人間版私達って所でしょ?なら戦争してその部族以外を家畜にした方が早くない?」

「え、貴女、あんなイカレた病気持ってる猿に触りたいの?」

「あ、ごめんやっぱ無し」


 アラクネ女性達は人間のメスに何の希望すらしていない所か忌避ばかりが募った様だ。


 獣人の少女は腰のポーチから真っ白な植物紙を取り出し、指に魔力を纏わせ要点だけを書いた。

 結果

 獣人女性

 ヒトメス臭い 狡猾なダニ 嫌悪

 アラクネ女性達 

 ヒトメスクソ、病気持ってるキライ近づきたくない


そう書き記しうんうんと頷くと、アラクネ女性陣に頭を下げ礼をしてハーピィ達の里に向かった。



 ハーピィ、それは歌を歌い木の皮からから縄、石を砕き礫器れっきを使い上空から樹の槍を降らせたり、落石や投石爆撃機にもなり、怒らせると歌で感覚麻痺から催眠、睡眠、発狂などの混乱を引き起こし、下降串刺しをして肉が腐り落ちるまで飾られる程であり、一時期は人の街で合唱して、竜種を誘引して滅ぼした、歌う悪魔達だが、逆鱗に触れなければ、陽気で鳥頭で歌好きな詩人達である。


 獣人の少女は木の枝からパルクールをしてスルスルと木に登り、ハーピィの里である、


アラクネより、樹の上に作らない木の板を吊るし、木の枝などで作った家などが集まったのがハーピィの里である。


 【ハーピィの里】


獣人の少女がハーピィの里へ訪れると辺り一体には一定のリズムで歌が歌われていた、どこか牧歌的で、ボーとしていたら眠りそうな、優しく気が安らぐ歌である。


 里の中央には、木を削って使った鳥の巣の様形状の場所があり、そこにハーピィ達が集まり歌っていた。


 獣人の少女はそこへ向かい聞き取り調査を開始した。


「皆さんに聞きます、人間をどう思いますか? またメスに対して思うことはありますか?」


ニコニコとしながらメモとペンを持って悪意なき質問を開始した。


 「人間達は色々、いる」

一人のハーピィの女性が声を張らなくても聞こえる凛とした声を発した。


 「人間達は、私達を殺したりするけど、それもまた営み、種ごとに、個体ごとに、色々な考えが感情が、ある」


ぽつぽつと無感情に語る女性を改めて見ると左脚にあたる部分は無く、髪で隠して居るが端正な顔の左目辺りから左頬まで伸びてる様切り傷もある。


 「ティティが、どう思うかは、解らない、それはティティ次第だよ、良い人間も居るし、悪い人間もいる、欲に呑まれ易いから、悪く見える」

 けど、と続け懐かしむ様に表情をして言う。


 「彼の様に別個体にも意識を割き思い、行動出来る者達も、居る、だから、ティティに伝えて」


 真っ直ぐに獣人の少女を捉えて透明な瞳でもって言う


 「一対の眼で捉えた、視点だけじゃ、貴女の答えも、憎しみも、怒りも、悲しみも、消えや、しない。 周りに同調を求めず、自分の心と、貴女の側にいる素敵な人を見て、決めなさい、壊すか、愛でるか、意識を捨てるか」


 その答えをこの森の住む生物個体達が許容し貴女の為に動くのだからと


 ニコリと微笑み獣人の少女を通して伝えた。


 獣人の少女は理解出来ない感情を感覚に囚われ、ブルリと身体を震わせると、一言一句、余す事なく書き綴り、無言で立ち上がり、ティティの所へと帰ろうとしたが、呼び止められる。


 「最後に、彼へ伝えて、あの歌を歌う鳥はいつまでも貴方を、想い愛してると、貴方の為にこの身を焼く事も厭わないと」


 最後の最後で愛と憎悪を混ぜた清廉で心地よい声音で告げられた。


 獣人の少女は必ずと返し、逃げる様に去った。



 そして、そのメモはティティの手に渡り、複雑そうな表情で見ていた。


 自分の本当の親の様に思う義父をチラ見すると、義父はハラハラと涙を溢しある方角を見ていた。

 

 ティティがそんな義父を見てまた獣人の少女が訪れた時に頼もうと、静かに思った。



 【ハーピィの里】


今日も今日とて、日が落ち、闇と星の光だけが支配した森で、一人のハーピィが静かに歌う。


 歌詞は無くとも解る程の感情の波でもって


 明るく楽しく歌い、恋焦がれる様に歌い、悲しく辛そうに歌い、安らぐ様に優しくゆっくり歌う。


 「あの鳥は恩を忘れません、真なる鳥は呪詛を望まれぬ限りガルドルを歌い悪用など致しません、嗚呼、歌い呪い、不幸を、フフフフフ」


 瀟洒に翼で口を覆い笑う。


 いっそ、呪いを振り撒いた方が幸せになるかもと思いながら。

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