大仏vsメカ道鏡

鹿の国から

大仏 vs メカ道鏡 (お試し版)

        【🚨警告】微シモネタ注意【警告🚨】

          【🚨警告】仏罰注意【警告🚨】


 20XX年。栄光の道を歩んできた人類は、その旅路を終えようとしていた。

 気候変動や国家間対立が激化し、世界のシステムが崩壊しつつあった。


 かつて喜びを分かち合った仲間は、互いに罵り合い、

 同じ釜の飯を食べた仲間は、互いにパンのかけらを奪い合った。


 世界一、規律と規範に優れると言われた日本においても、人々は僅かな金を巡って騙し合い、生きるために人を蹴落とすことが当たり前の世の中になってしまった。


 仏教では、釈迦の死後2000年頃に仏の教えが死に絶えた「末法」という世の中が到来すると言われてきた。

 釈迦の没年は不詳であるが、今まさに末法の世と言える有様であった。


 そんなある日のこと……。



「超高速の飛翔体を確認! 発射地点は……そ、そんなバカな!?」


「どうした! どこからだ!?」


「発射地点は、その……奈良県です!」


「( ゚Д゚)ハァ? ……奈良県だと??? あの鹿と大仏と柿の葉寿司しか無い、近鉄が止まると県が滅ぶ、あの奈良県か?」


「そうです! 身の程も知らずにリニアを引き込んだり、関空よりアクセスの悪い県南部に空港をこさえようとしているあの奈良県です!」


「馬鹿も休み休み言え! いまだにニホンオオカミやカワウソの目撃談が定期的にニュースになる奈良県に、そごうはおろかイトーヨーカドーですら維持できない奈良県に、飛翔体をぶっ放す技術力なんてあるわけなかろう!」


「ロ…ロピアは頑張ってるもん!」


「映像、出ます!」


 指令室の中央大画面に飛翔体の姿が大写しになる。

 高速で飛行していると思われるその物体は、先端が少し膨らんだ棒状で、後端には球状の物体が二つ付随しているように見える。


 な、なんだこれは!!


 それは見る者すべてを圧倒する雄々しさだった。

 モニター越しにでも存分に伝わる巨大さである。

 

 それは傍若無人そのもの。


 暴力的で、

 背徳的で、

 神秘的で、

 デカくて太い。


 まさに男の夢と羨望を孕んだ浪漫飛行。

 う~ん、グレイト!!


 指令室に居た男性は皆、それを見た途端に自信を失ってしょげかえった。

 指令室に居た女性は皆、それを見た途端に双眸を潤ませて卒倒した。

 

 剛胆剛腕でこれまで国家の危機を幾度となく救ってきた司令官もガックリと膝をついた。


 勝てない。完敗だ。

 護国の戦士として、戦う前に敗北を悟るなどあってはならないことだった。

 否、たとえ敗北を悟ったとしても膝をつくなどもってのほか。

 敗北が必定であっても、民のために不敵に笑って前線に仁王立ちするこそ、戦士のあるべき姿ではないか。


 司令官は自らに課せられた使命を思い起こし、己を奮い立たせようとしたが、いかんせんすっかり委縮してしまってどうにもならない。


「…ちゃ、着弾まであと8分。司令…ご指示を…グフッ」


 オペレーターは最後の力を振り絞って指示を仰いだが、直後に力尽きた。

 飛翔体はますますスピードを上げて目標へと突き進む。

 日本の危機は致命的な局面を迎えていた。



 その時、指令室の阿鼻叫喚を腕組みをして静観していた者がひとり。

 おもむろにスカートをパンパンと払って立ち上がった。


「ま、しょせん軍人さんね。身体はガチムチでもあっちはお子ちゃまなのよ」


 長い髪をかき上げ、顎を撫でる。朝剃ったばかりなのに既にザラついてきた手触りに不快そうに顔を顰める。

 膝をついて項垂れる司令官の前に仁王立ちすると、


「時間がないわ。あとはアタシたちに任せてちょうだい」


 彼を睥睨してきっぱりと宣言すると、スマホを取り出して何処かに連絡を入れた。


「さあ、ようやく出番よ!」




―――束大寺。


 言わずと知れた観光名所であり、奈良時代に創健された大仏殿には座像で15mの巨体を誇るいわゆる大仏様が安置奉られている…はずなのだが、大仏殿の中は空っぽになっていた。


 代わりにズラリと並んだ僧侶が一心不乱に読経を唱和している。

 何故か袈裟がバラバラなのだが、それは日本各地から集められた選りすぐりの僧侶たちであった。

 パッと見ただけでは何を基準に選ばれたのかよくわからないが、妙にイケメンとガテン系の顔立ちが多い気がする。

 どの僧も顔を紅潮させ、額に珠のような汗を浮かべて読経を続けている。


「結局追いかけっこになっちまったじゃない。ちゃんと間に合うの?」


 祈りの場に不釣り合いなピンクのスーツを着た巨漢が、金堂の隅で片耳を塞いで

 スマホにもう片耳を押し当てている。


『しょうがないじゃない。アタシ達だって国からの依頼なしで戦ったら、ただのテロリストだからね』


 通話の相手は指令室に居た人物だ。

 国の依頼を受けた、というより国の機関が壊滅したので自動的に権限が回って来たのであるが、一刻を争う国家の危機に細かい解説は割愛しておこう。


「こんなことだろうと思って事前に発進しておいたわよ」


『さすがね。で、状況はどうなの?』


「予想通り、目標は宇佐八幡宮に向かってるわ。大仏様が追い付くまで、あと2分ってところね」


『読みが当たってよかったわ。道鏡失脚の最大要因、宇佐八幡宮神託事件。彼が一番恨んでいるところと言ったら、あそこだと思ったわ』


「そろそろ捕まえるころでしょうね。私も詰め所に入るわ」




 金堂内に設けられた仮設の詰め所。

 仮設の作戦司令室といえば計器類やモニターが所狭しと並べられているイメージであるが、詰め所内には大型のテレビと無線機がそれぞれひとつ置かれているだけである。


 内部に人も少なく、ピンクスーツの他には束大寺の館長が居るだけだった。


「まさか本当に大仏様に動いていただくことになるなんて、ねえ」


 剃髪して最上級の袈裟を着た館長が額の汗を拭う。

 金堂を埋め尽くす僧侶の読経は益々熱を帯びてきており、開口部が少ない建物内は熱気が充満している。


「今思えば、よく1300年も荒唐無稽なお伽噺を信じ続けてこれたものね」


 ピンクスーツが寺院の建造物内にもかかわらず煙草に火をつけた。ここは禁煙よと窘める館長に対し、これは煙草じゃなくて香木だ、と言い訳をする。


「今じゃマイノリティなんて言われているけど、ちょっと前の時代までポピュラーな文化だったのよ。特に仏門や貴族の間じゃ、ね」


 香木なら仕方ない、と館長は一分の隙もなく綺麗に剃髪された頭を撫で、自分にも一本分けてとせがむ。


 二人は並んで香木という名目の紫煙をくゆらせながらモニターを見つめる。


「末法の世が訪れし時、道鏡の遺産が日ノ本を滅ぼす」


 館長が険しい顔で呟く。冷静を保っているが頬に紅色が差している。


「——平安の異端聖人。かの高名な大師と同じ時代に生き、実力はこちらが上と称されながらも仏教史の表舞台から姿を消した鬼才、耕棒大師こうぼうだいしの予言ね」


「穴掘り影法師。男色耕運機。キツツキ耕棒。数々の異名と共に畏怖され、その股に生えた棍棒は剛力無双。どんなに硬く引き締まった尻だろうとフカフカの畑の土のように耕してしまう、私たち男色家の祖とも言える伝説の漢。彼だけが、道鏡の野望を見抜いていた」


「そして束大寺に秘密結社を作り、道鏡の子孫たちに気づかれぬようその存在は国家ぐるみで隠ぺいされた」



 モニターは瀬戸内上空を映し出している。

 二体の飛翔体が高速で西へと進路をとっている。

 前を行くのは猛々しく雄々しい肌色の物体、猛追するのは青銅色の巨大な仏像である。二体とも、空気抵抗による摩擦熱で先端部が赤黒く変色している。


 大仏は僧侶たちの祈りによって長年の眠りから覚め、まるで生きているかのように動くことができる。

 座像で15mだが立ち上がると30m。電車一両半くらいの巨体がスーパーマンスタイルで高速飛行している。

 大仏が追う飛翔体もほとんど同じ大きさだ。

 

 ついに大仏が飛翔体を捕らえた。

 卑猥な抱き枕にしがみつくような格好になり、大仏が急停止を試みる。

 空気を震撼させる轟音とともに、抱き枕の後端のジェット噴射が勢いを増す。


「止められるかしら」


「止めるわよ。祈りを高めるほどに大仏様は強くなる!」


 しばらく前進も後退もせず、空中で拮抗していた二体だったが、次第に飛翔体のジェットがボスッ、ボスッという音を立てて途切れ始めた。


 これを好機と見た大仏は抱き枕を抱え上げ垂直降下に向ける。

 二体は真下に見える無人島に向けてみるみる高度を下げる。


 地面に接触するかと思った刹那、飛翔体の後端にあった玉の部分が破裂した。

 大仏の顔面近くでそれが炸裂し、大仏は手を放して地面に倒れ込む。

 木々がなぎ倒され、森に潜んでいた鳥たちが一斉に飛び立った。


 一方、玉を失って棒だけになった飛翔体はその姿を変化させていく。

 肉色の外皮を破り、中から出て来たのは手足の生えた銀色の人型である。


「あれが、メカ道鏡……っ!」


 モニターを睨んでピンクスーツが歯噛みする。

 人型のようだが足が三本ある。

 しかしよくよく見ると、それは両足の間にもう一本ぶら下がっているようだ。


「……さすがね」


 ピンクスーツは舌なめずりした。

 立派過ぎる。生身の人類が相手をできるシロモノではない。


「王を篭絡し、皇位を簒奪しようと企んだ道鏡。性の象徴が人体を纏っているとも評された怪物。座れば膝が三つあり、なんて生易しいもんじゃない。彼に迫られたらたとえ一国を纏め率いた女傑とて、ひとたまりもなかったでしょう」


「宇佐の神託によって彼の野望は潰えた。だが、流刑地にて彼は密かに子孫を残した。そして末法の世が訪れた時、この国に復讐するよう代々伝えてきたのよ」


「そして、時は満ちた。と言うわけね」


「ええ。だけど耕棒大師様だけは道鏡の野望を見抜いていた。大師様は道鏡と同じ手段を選んだの。平安遷都を果たし、男王の治世になったある時、大師様は帝の寵愛を得ることに成功した。ただし、私利私欲のために自分が王に成り代わるのではなく、道鏡の企てを阻むために帝の力を利用したのよ」


「それが私たちの組織の始まり。だけど…」


 ピンクスーツが不思議そうに首を傾げた。


「大師様は、どうして歴史から綺麗さっぱり消えてしまったのかしら? 道鏡のは教科書にだって乗るほど有名じゃないの。帝に寄り添えるくらい高名な方なら、誰かが記録してたっておかしくないわ」


「さあ? 正史せいしに残すにはちょっとイカ臭かったんじゃないかしら。セイシだけに」


「うーん。束大寺の最高指導者が言っていいセリフじゃないわねえ」



――瀬戸内海に浮かぶ無人島では、祈りの力で動体となった大仏と、先祖の恨みを晴らすため極秘に作られた機械仕掛けの道鏡が睨み合っていた。


 互いにジリジリと間合いを詰め、同時に走り出す。

 推定重量380トンの青銅の固まりである大仏と、同等の巨体を持った鋼鉄の復讐者メカ道鏡が、がっぷり四つに組み合った!




――― ・ ――― ・ ――― ・ ――― ・ ――― ・ ―――



【あとがき】

 夜中に「メカ道鏡」という意味不明なワードが降りて来たので、そこから妄想を膨らませてみたのですが……なんか色々と酷いので、この辺でやめときます。

 需要があったらちゃんと書く、かも。

 

お詫び①:微シモネタどころではなくなったことをお詫び申し上げます。

お詫び②:これはフィクションです。実在する寺社とか大仏とか一切関係ありません。ホラよく見て、東じゃないです。束です。束大寺です。




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