第11話「誓います」
『逢いたかったぞ
『なに言ってるんですか違いますよ』
『え? 違うのか? だって儂、死んでるみたいだぞ?』
息をしてるのかさえ定かでない、静かに布団に横たわる自分の体を指差し
いやまぁそうと言えばそうなんですけど違うんですよ。
『
顎に手をやり思案顔のウチの人。
うーん、説明が難しい、ってより面倒だねぇ。
『まぁちょいと黙って話を聞いて下さいな』
『おう、聞く……しかし由乃、お化けも歳を取るんだな』
なんてことでしょう!?
お前老けたな、なんて言ったらぶん殴ってやりましょうか!
いや実際のところ老けたんで言われたっておかしくないですけど、言われたかないもんなんですよ。
『二十年ぶりか…………歳をとってもお前は相変わらず世界一可愛いのぉ。儂もう
ふんすふんすと鼻息荒い爺さまがなんか仰ってます。貴方もホント相変わらずですねえ。
『実はそんなに時間がないんですよ。せいぜい四半刻(三十分)しかない――』
『いやそんだけあればとりあえず充分――ぐぇっ』
……
あたしゃ呆れちまって声が出る前に手が出ちまったよ。
服
『殴ることないだろうに』
『殴るところですよ。相変わらずおバカなんですから、もう』
一向に話が進みませんからね。
お化けの姿ですがきちんと正座して、掌であたしの前の畳を示してみせました。
あたしの意をようやく汲んでくれた仁左衛門も
歳はとってもしゃんと背筋に芯が通って相変わらず男前だねぇこの人。
『時間がありませんから手短かに言いますよ』
『お、おう。なんだ?』
『あたしはもう逝こうかと思ってんです』
『な――何故じゃ!? 一緒に逝こうと言うておったじゃろうが!』
確かにお前さんはそう言ってくれてましたけど、色々考えてそれが一番良い様に思うんです。
『仁太の為です』
あたしのそのひと言に、色を無くしてた仁左衛門がスッと落ち着きを取り戻して言いました。
『お柳ちゃんだな。由乃の姿に瓜二つ、いや、ありゃどう見ても由乃そのものだ。その辺りになにか理由がある、ってとこか』
『お前さん、気付いて……?』
『儂が由乃を見間違う訳がなかろうが! 老いたりとは言えこの仁左衛門、何十年
そうですか……お前さんったら……。
お柳さんがやって来た最初の時、あの時もホントにあたしが帰ってきたと思って喜んでくれてたんですね。
なんか、泣けちゃいますね。
『いつ、逝くつもりだ?』
『もうじきお盆だからさ。
仁太が触れられるのかどうかも気になりますからね。
『ん、そうか。まぁ、分かった。賢いお前が言うんだ。それが本当に仁太の為になるんじゃろう』
『分かってくれましたかお前さん。きっとそうなる筈――』
『しかし、だ――』
なんです? まだ何かありますか?
『ひと足先にあの世に行っても、よそのお化けに
貴方ったらホントに…………貴方ですねぇ。
『ええ、誓います。あの世でも貴方をお待ちしてますから』
あの晩から数日、少し
思い直したらしく、空元気ながらもビシバシ仁太を鍛え始めてくれたんです。
「儂も老い先短いはずだ! 今のうちに一人前にしてやらねばならん!」
「爺ちゃんはまだまだ死にゃしないってば。こんな元気な爺い他にいないもんよ」
あたしもそれには同意見です。
その歳であんな時に、
「そんな筈はない! きっと老い先短い! 早く逝かねばあの世の由乃に悪い虫がつく! 短くあれ儂の寿命!」
あ、そんな論法でしたか。
まだもう少し居ますけどねあたし。
さて。
仁太の事はウチの人に任せて大丈夫そうです。
これで心置きなく
お柳さんが最初に言ってた――
『由乃ちゃん、あんまり長いことわたくしから離れないで下さいね』
『離れてるとどうなるんです?』
『消えてなくなっちゃいます』
『成仏するってことかい?』
『いいえ。無くなるんです、由乃ちゃんが』
――ってやつ。
あれって今のあたしが
って事だからさ。
仁太も満更でもないみたいだし、あたしの体、お柳さんに上げちまおうと思うんだ。
今のままだとどうしたって、祖母と孫でそんな事ってあたしが思っちまうからさ。
ごめんよお前さん。
あたしきっと、消えちまっちゃあの世にも行けないと思う。
騙してごめんよ。許しておくれね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます