異世界転移の女神だが、主人公候補の男がなかなか死んでくれない。
@KOJIKI-Project
第1話 異世界転移へようこそ。
突然訪れた真っ白な空間に男は困惑する。
物音どころか風すらも感じられない。
見えているのは男自身が座っている椅子と、それに向かい合う形で置かれた椅子のみだ。
「何なんだよこれは!?」
そんな男の問いに答えたのは、透き通るかのようにキレイな女性の声だった。
「此所は天界と地上界の狭間です。ようこそ、恭也さん」
舞い降りるかのように現れたのは、シルクのようなきめ細やかな羽衣を身にまとった、青い瞳に空色の長い髪の女性だった。
背中には大きくて真っ白な羽まで生えている。
身長は女子高生並みだが、足が長くすらっとしていて、見た目以上に高く感じた。
全てを包み込んでくれそうな程に優しいほほえみで、この世の者とは思えない程の魅力を放っている。
「あなたは一体……」
何者なのかと問うまでも無く、女性の方から答えが返ってきた。
「私はブラウ・ナルビエタ。あなた方が言うところの女神です」
男の脳内に既視感が過ぎる。――この展開はもしかして。
「俺、もしかして、異世界転生出来るの?」
しかし、男の期待に満ちた疑問に対し、女神の方は深くため息を吐き、男の質問に対し質問で返す。
「あなたの長所は何ですか?」
「長……所……?」
まるで面接のような質問をされて戸惑う男だったが、これはもしかしたらどんな能力を与えるかを見極めようとしているのだと勘ぐり、真剣に答えることにした。
「長所と言えるほどのものはないですが、数々のアニメを観てきたので、大抵の世界観には順応することが出来ると思います」
「あなたが今までで努力したことはありますか?」
「これと言って努力したことは無いです。ですが、だからこそ努力していればという後悔は誰よりも強いです。もし、生まれ変わったら誰よりも早い段階から努力を積み重ねて、誰よりも強くなって見せます」
ここで、女神が美しいほほえみを隠すこと無く歪ませて、男に忠告を入れる。
「私が出来るのは『異世界転生』では無く『異世界転移』よ。この違いはわかるかしら? 次に生まれる世界を異世界にするのではなく、あなたを別の世界に召喚するの。……アニメが好きなあなたなら理解しやすいわよね?」
異世界転生は生まれ持った才能と前世の知識を生かして、小さい頃から努力し、他を圧倒するのに対して、異世界転移の場合はチート級のスキルを持って無双する。もしくは異世界には無い現代知識で周囲を圧倒することが多い。
そして、異世界転移モノで女神が降臨するとなると……!
「強いか弱いかはさておき、何かスキルを手に入れることは確定したってことだな。よっしゃーー! ワクワクしてきたぜ!」
「ちなみに私はそんなに強いスキルを与えることは出来ないのだけれども、異世界に行って、あなたが活躍出来るような知識はあるのかしら?」
「任せて下さいよ! こう見えて俺は理科と数学だけは誰よりも得意だったんですよ」
「……わかりました。では、こちらの扉をくぐりなさい。――お気をつけて」
真っ白な空間に扉が現れる。その扉の先は時空が歪んでいるらしく、グネグネとした光りを放っていた。
男はゴクリと息を飲み、思い切って飛び込んだ。
そして、わずか3日後。
女神のもとへ男の訃報が飛び込んでくるのだった。
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