19

暗い階段を心許ないロウソクの灯りが照らす。ソフィアが進むその先を、何も言わず3人は付いていく。冷たく暗いその先に、唐突に現れる輝きを放つ街。


「皆さんようこそ。地下都市カルトㇲへ」


ソフィアの大きな瞳が微笑む。





どこまで広がっているのか、光る壁が取り囲む暗闇に浮かぶ街に、人々が行き交う。石造りの家にホロの店、地上の街をそのまま移した様なその風景に言葉が出てこない。


「もしやこれは、幻の民モルベの集落ですか」


やっとでポルクが口を開く。


「ええ、黙っていてすいません。でも、ここを知られる訳にはいかなかったので」

「おい。俺にも分かるように説明してくれ」


今だ状況が掴めないラグの顔がゆがむ。


「モルベの民。またの名を陽炎の民。その詳細は広くは知られていませんが、鉱物を求め地下から地下へ移動する民族だと聞きます。古くは女神レミナスの神託書にも登場します」

「要するに、地下を旅する遊民族ですよ」


もう少しで湯気が立ちそうなラグに、笑い声を押し殺していたソフィアが助け舟を出す。


「じゃ上の街は、あれは一体なんだったんだ」

「あれはあくまで貿易の為の仮の街です。元は廃墟、サンドワームの巣でもあります」

「おねちゃん」


4人に駆け寄ってくるガイオナ、その後ろからマルタタとブブカスも近づいてくる。


「ご無事でなによりです。族長」

「族長!」


ブブカスがソフィアにそう挨拶すると、3人は顔を見合わせる。


「仮ですよ、仮。もぅ、おじいちゃんが変なこと引き受けるから」


「よく頑張ったね」

「ありがとう、おばさん」


マルタタがその包容力でソフィアを抱きしめ、ソフィアも抱き返す。





「にしても、不思議なところだぜ。地下なのに空があるみたいだ」


満天の星空のように煌めく天井を眺め、ラグが呟く。


「騙していて、ごめんなさい」


隣に立つソフィアが俯き謝る。頭に乗せた大きな手が、2回優しく叩く。


自警団団長ブブカスカと話していたポルクが改めてソフィアに歩み寄る。リンドは静かに後ろに続く。


「ソフィア殿。改めてお願いしたい。どうぞ我々と一緒にアイル様をお救い下さい」

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