18

「くっそ。そんなこと言ったてこっちは初めてなんだよ」


慣れない舵取りに悪態をつきながらも、砂に突き刺さる鋼鉄の槍をギリギリでかわした船体が大きく揺れる。


「ひぃぃぃ」


折れたマストの根本にしがみつくポルクが安定の悲鳴を上げる。


「右25。次、左に15」


碧い目に映る無数の数列を光速で演算処理していく。そこから導き出された航路を、舵に取り付けた文字盤の数字に置き換えラグに伝える。


降りそそぐ鋼鉄の槍がどんなに多くとも、どんなに複雑な軌道でも、彼女にはその全てが手に取るように分かった。



「で、どうするんだ。避けてるばかりじゃ助けられねえぞ」

「ならこんなのはどうですか。右15から左に35」


包囲を縮めだした船団の間を縫うようにシップが滑る。その速さに対応出来ず衝突して悲鳴を上げる船体が、リンドを拘束する鉄の柱もろとも傾く。


「リンドさん大丈夫ですか」


傾いた柱に近づきリンドを助け出す。もはや陣形などとどめていない船団からなおも降りそそぐ鋼鉄の槍と合わせ、お次は砲弾が飛んでくる。


荒れ狂う砂海を滑るように走るソフィア達を乗せたサンドシップ、いや宙に浮く船、エアシップとでも呼ぶべきか。


船団の攻撃目標が、エアシップから街へと変わる。


「やろぉ」

「大丈夫です。集中して下さい。右に20」


熱くなるラグを導き、船団の間をすり抜けると、街から離れるエアシップ。ソフィアたちを追撃しようと全船回頭する。



「ここです。止まって下さい」

「はぁ?おま」

「静かに」


体勢を整え迫りくるランドルフ王国騎士団。




西の空に日が沈む。


「来ます」




その恐怖は突如訪れた。


地響きと共に地の底から現れる地獄の使者。騎士達は何が起きたか理解できなかっただろう。出来ないまま、地の奥底に引きずり込まれていく。


呆気に取られる3人に静かにするよう、人差し指を唇に押し当て合図するソフィア。


あっという間に騎士団を地獄の底へ引きずり込んだサンドワームの群れは、ねぐらへと帰っていった。

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