16

砂の海に突き刺さる鋼鉄の柱、先端には後ろ手に縛られたリンドが吊るされている。王国騎士団のサンドシップが柱を取り囲みように停泊し、甲板にはあの黒の騎士が立っている。城壁から現れる1頭のキャム、ソレを見て不気味に笑う。




「どうして、なんで助けにいかないの」


太陽が西の空に傾き、刻々と期限の夕刻が迫る中、結論の出ぬ話し合いに焦りだけが募っていく。


ランドルフ王国騎士団からの要求は、リンドと光炎石こうえんせきの交換。もちろん要求は飲む、そう思っていたソフィアはふたりの出した結論に困惑していた。


「要求は飲めません」

「そんな、だって石はもう一つあるじゃない。リンドさんが助かるなら、私の石を使って下さい」

「いえ、貴方がお持ちになっている光炎石こうえんせきと私のものとでは、同じに見えても違うのです。それに」


ポルクが皮の手袋を外すと手の甲に文様が浮き出ている。円形に並ぶ見たことのない文字、それはまるで魔法陣のようだ。


「きっと彼らの目的はこれを手に入れることです。青の女王を手にする為に」

「だって、青の女王は捕らえられているって……」

「はい、そうです。しかし彼らにではない」

「え、じゃあ誰に?」

「分かりません。この文様がなんなのか、アイル様がどこにおいでなのか」

「じゃあ何で生きてるって言い切れる」


壁にもたれ掛かって、ふたりのやり取りを聞いていたラグが口を開く。


「託されたのです。アイル様に」

「話が見えねぇな。それとも何か、俺たちを騙したのか」

「いえ、決してその様なことは。本当に分からないのです、どうすればいいのか。分からないから、ジーク殿を訪ねて来たのです。助言を得るために」


要領を得ない話とポルクの頑なな意志に、これからどうすればいいのか、最善の解が見えぬまま時間だが無慈悲に過ぎていく。


「でも、リンドさんを助けなくちゃ」

「街が破壊されてもか?」


低く放たれた鋭い声が、ソフィアを貫く。


「そうですね。彼らが普通に取引するとは思えません。リンドもそのコトは分かっています。今すぐここを出るべきだと私は思います」

「だって仲間でしょ?」

「王都を出立したあの夜に、みな覚悟は出来ています」

「そんな……でも」


机を叩く破裂音。いつの間にかソフィアの背後にラグが立っている。


「おい、お前はなにがしたいんだ」

「だって皆を助けなきゃ。だって……」


大きな手が胸ぐらを掴んでソフィアを引き上げる。


「そんな言い訳聞いてんじゃない。お前自信はどうしたいのか聞いてんだ」

「私。わたしは」


暗い瞳を見つめていた手を離し、ドアに歩いていく。


「おれは下りるぜ。自分のない奴に背中はあずけらえねぇ」

「ラグさん!」


立ち上がって振り返り、腕輪を掴み呼び止める


「好きにしな。だがな、たとえ首が飛ぼうとも俺は出てくぜ」


何も出来ぬまま立ち尽くすソフィアに、ドアを乱暴に閉める音だけが響いた。

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