15

リンドが柄に手を掛けると、首を左右に降ったポルクがそれを押し止める。


ソフィアの指示に逆らって、物陰に隠れて息を潜め様子を伺いに来たふたり。黒の騎士を見て思わず熱を帯びるリンド。しかし、今姿を表すわけにはいかない。



「もう一度だけ聞こう。ローブのふたりはどこだ」


路地に片膝を立てた状態で息を荒げへたり込むラグ、その傍らにはソフィアが寄り添っている。光を失った腕輪と首輪。


立膝に手を付き立ち上がる鉄色くろがねいろの両腕は煤けいる。露出した肌のいたるところから出血をしているが、それでも腕を上げ黒の騎士に向かって構える。


躊躇ちゅうちょ無く飛んでくる斬撃を紙一重でかわし繰り出す拳。しかし、舞い落ちる木の葉を払うようにかわされ、横一文字の斬撃が黒の騎士から放たれる。



黒の斬撃をリンドの太刀が受ける止める。間髪入れず一太刀入れ、流れるように連続で打ち出すも、それら全てを的確にいなされ返される。ふたりの攻防に周りの騎士は、誰ひとりとして手が出せない。組み合う白と黒の刃。


「探したぞ主に仇成すものよ」

「なにを馬鹿なことを!」


攻守が交代し黒の騎士の刃がリンドを襲う。先程とは違い黒の斬撃に対応出来ないリンドは次第に押され始め、ついには弾き飛ばされる。


後ろで倒れていたラグが上体を起こし、立ち上がろうと力を振り絞る。右腕にしがみつく小さな震え。ラグがソフィアに向き直ると、左頬に血糊をベッタリと付け、こちらを見つめている、その黒く大きな瞳は不安の色に濡れていた。


リンドが目の前に弾き飛ばされてくる。迫る黒の騎士。リンドがふたりの盾になるように、太刀を支えに立ち上がる。右腕にしがみついて離れないソフィアを振り払い立ち上がると、リンドの横に歩み寄る。


「派手にやられたじゃないか」

「お前ほどではない」


黒い衝動がふたりに近付いてくる。


「ここじゃ、ヤツを相手するには無理があるんじゃないのか」

「問題ない。お前こそ無理するな。その状態ではどうもなるまい」


リンドがちらりと後ろを気にする。


「大丈夫さ。心配ない」


互いに黒の騎士を見据え構え直すと攻撃に転じる。ふたりをいなす黒の斬撃からは余裕すらうかがえる。しかし、バラバラだった攻撃が徐々にだが噛み合っていき、押され始める黒の騎士。それはまるで互いを認めうように。


だが、決定打に欠け攻めあぐねるラグとリンド。ふたりに牽制の一撃入れると黒の騎士の動きが止まる、ほどなくして甲冑の間から殺意を具現化したような黒い霧が立ち上る。


先程とは比べ物にならない斬撃に、あっという間に地に膝をつくふたり。黒の斬撃が、両手を地に付き項垂れるラグの首筋に目掛けて振り下ろされる。


リンドが間に割って入り黒の刃を受け止める、と同時に頭上で破裂音が鳴る。怯んだ騎士たちを割って駆けてくる大型なキャム。その背中には、奇声を上げるポルクが手綱を握っている。そのままの勢いで黒の騎士に突撃してすり抜けていくキャムに、最後の力を振り絞り飛び乗るラグ、右腕には呆然としているソフィアが抱きかかえらえている。


「ひぃぃぃ」


悲鳴と共に、キャムはそのまま走り去っていった。

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