12
「お主、自分が何を言っているのか分かっているのか!」
炎の光が収まった部屋で、リンドはポルクに詰め寄っていた。
「ええ、分かっていますとも。分かった上でお話しております」
「ばかな。王国書籍管、随一の俊才と呼ばれた男の判断とは思えない」
呆れて背を向けるリンドの先で、腕を組み壁にもたれ話をじっと聞いているラグと目が合うポルク。
「他にも手立てがあるはずだ」
「しかし、ジーク殿がご逝去なさっている今となっては、もはや頼れるのはソフィア殿ただひとりです」
「詭弁だ。よく見てみろ、まだ年端もいかぬ子供ではないか」
「ですが、その子供に助けられたのも事実。それに行くも戻るも、ソフィア殿に頼らねがここから動くこともままなりません」
乱暴に壁を叩いた音が部屋に木霊する、それとは対照的な静かな口調のポルク。両者はにらみ合い、互いに譲るつもりはない。
「えっと。おふたりがおじちゃんを訪ねてらっしゃたのは分かったんですけど、私に助けて貰うっていうのは……」
膠着状態に入ったやり取りに第三の合いの手が入る。改めてソフィアに向き直ったポルクは、胸に下げた小袋をテーブルの上に置く。
「おい!それ以上は」
「青の女王、アイル様は生きて捕らえられておられます」
リンドの静止を無視したポルクは、はっきりとそう告げた。
城壁の上で夜の終わりを眺めるふたり、昼間の大宴会が嘘のように静まりかえっている。
「どうするつもりだ?」
「分かりません」
徐々に白んでいく東の空に、ウズメの群れが飛んでいく。振り返ると、変わり果てた街にいつもの朝日がさし人々を照らす。瓦礫を片付けるもの、店を開く準備をするもの、行き交う人々が挨拶を交わし、昨日と同じ新しい今日が始まる。
「街の人達は本当にいい人ばかりで、放浪していた私とおじいちゃんを、何のためらいもなく受け入れてくれたんです」
あちらこちらで話し声が上がる、次第に広がり街が目覚めていく。
「マルタタのおばさんも、ガイオナの家族も、みんないい人で、少しでも恩返しがしたいんです」
背中に朝日を浴び街を眺めるソフィアの横で、ラグはただ黙って立っている。
「でも、おじちゃんを頼って訪ねてきた、ポルクさんたちの力にもなりたい。これってわがままですか?」
「さあな」
それに、そう言いかけて、朝のまだ寒い空に両肩を抱き身震いすると、砂漠の乾いた風がソフィアの髪を駆け抜ける。振り変えると、朝日が上りきった地平線が黒く染まっている。何隻だろうか、大型のサンドシップが大波のように、街に向かって迫っていた。
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