11

その悲報が王都を駆け巡ったのは、神謝際が間近に迫った、緩やかな朝だった。


「なぜだ!なぜ、謁見出来ぬのだ!!」

「駄目なものは駄目だ。お引き取り願おう」


青の女王、その寝室の前でリンドは騎士達と揉めていた。


「可笑しいではないか。なぜ青の近衛兵たる私が謁見できんのだ。そもそもアイル様がお亡くなりになられたなど誰が信じようか。昨日までお元気だったではないか!」

「だから何度も言っている。昨晩、容態が急変されたのだ」

「ならせめて、お顔を拝見したい。なぜそれがまかり通らん」

「駄目なものは駄目だ。これはエレノワ様からのご命令だ」

「なに?なぜ赤の女王たるエレノワ様がそのような、そんな権限はないはずだ!」

「どうした。何を揉めている」


回廊の奥より歩み来る黒い影。黒い甲冑の兜に入る白い三本のラインは神円しんえんの聖者、その守護者にして黒の騎士団長のひとりを意味していた。


「グリムロック、なぜ貴様がここに」

「口の聞き方も知らんようだな」

「なに」

「青の女王直属の近衛兵と言えどマルス教団の一員。ましてや、女王がご逝去されたとあっては、その特権も無効だというのがなぜ分からん」

「アイル様がお亡くなりなったなど。この目で見定めるまでは信じられるものか」


熱が入り思わず鞘に手を掛けるリンド。瞬時にその場に居た騎士達も鞘に手を掛ける、ただひとりを除いては。


「主を無くして血迷ったか」


ゆっくりとした足取りで間合いを詰められ、思わず鞘を握る手に力が入る。圧倒的に有利だというのに、黒い甲冑から漂う人ならぬ気配に、じりじりと後退してしまう。


コト。


静まり返った回廊に部屋からの物音が微かに聞こえる。次の瞬間、リンドの高速抜刀術がグリムロックの首筋を捉える。しかし、それを上回る速さでリンドの太刀を剣で受ける、兜に白い一本のラインが入った黒の騎士。遅れて他の騎士達も一斉に剣を抜く。


抜刀した騎士達に囲まれたまま、黒の騎士に斬りかかるが、まるで子供と戯れるように否され、徐々に窓際に追い詰められていく。気がつけが窓を背にして後がない。


「さらばだ。蛮族の剣士よ」


そう言い放ち、殺意のある一撃が放たれる、と同時に窓ガラスが割れ、噴煙が回廊を白く覆った。


慌てた騎士たちが噴煙を回廊より追い出すが、そこにはもうリンドの姿はなかった。




その夜、闇に紛れてローブ姿の集団が西の最果てを目指し王都を後にした。元王立騎士団、三賢者のひとり、義のジークに合うために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る