05

「ラグさん、回転してひざまずいて」


ソフィアの指示が飛んでくるが、次々と飛んでくる半月刀を捌くのに追われて、そんな余裕はない。背面で同じように立ち回る名も知らぬ女も、目の前の敵をいなすのに精一杯のようだ。


「なぜ剣を使わない」


抗議の声が背後から聞こえてくる。


「なんの話だ」

「騎士なら剣を使うのは当然だろう」

「見当違いだ。俺は騎士じゃない」

「見え透いた嘘を」

「本当さ。それにもしそうだとしても、今は持ち合わせがなくてね」


倒せど倒せど湧くように集まる砂賊達。


「そっちこそどうなんだ」

「なにがだ」

「森の民は長物は苦手だろ」

「それは偏見だ」


近くで上がる砂柱たち。砲弾の射撃精度が上がって来ている。一箇所に留まるのは不味いが、砂賊達の包囲を突破する糸口が見えない。


「もう一度言いますよ。回転してひざまずいて。これなら出来るでしょ!」


そう言い終える前に目の前に大量の砂が降りそそぐ。砂埃が一瞬だけ視界を奪う。ラグは半信半疑のまま回転して膝まづく。


「手のひらに乗ってジャンプ」


慌てて出した手のひらにローブの女が飛び乗ると、同時に大きく両腕を跳ね上げる。弧を描き宙を舞う長い銀髪が、そのまま遺跡の壁上に着地する。


風で砂埃が流され砂賊達が現れる。これならば。ローブの女は短刀を左手に持ち直すと逆手に回転させ、ひと呼吸置く。短刀から光が発せられ弓の形になると、引き絞られた光の矢が放たれる。冷気を纏ったその矢が、次々と砂賊を倒していく。


撃ち残った砂賊を蹴散らしラグはキャムが消えた路地へと走り出す。壁から飛び降り付いてくるローブの女。


「やるじゃないか。あれは一体何だ?」

「教える義理はない」


砲弾の雨をかいくぐり壁から顔だけ出して手招きするソフィアを見つけると滑り込む。背後であがる砂柱。間一髪で砲弾から逃れるふたり。


「凄いですよ、お二人とも。即興でしたけど息ピッタリでしたよ」

「どこで知った」

「へ?なにがですか」

「どぼけるな」

「ああ。あれは、前に一度本で読んだことがあったので」

「本?しかしあれは……」


止まない爆撃音に会話が途切れる。


「で、どうすんだこの後は」

「そうですね。このままだとあれに吹き飛ばされるか、瓦礫の生き埋めになっちゃいますね」


呑気な声でまたも辺りをキョロキョロ見渡している。


「まさかあれに突っ込めとか言わないよな」

「おお、それもいいですね」


どこまで本気なんだこの娘。


「それも良さそうですが。もう少しだけ良い方法がありますよ」

「なんだそれは」

「でもなぁ」


黒く大きな瞳がラグを見つめる。


「なんだよ」

「いや。出来るかなと思って、結構大変ですよ」

「この状況よりはマシだろ。なんだってやる。やってやるよ」


またも近づく爆撃音に負けないように大声で去勢を張る。


「そうですか?分かりました。あのですね……」

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