04

ここに逃げ込んだのは失敗だったか。


キャムを操るローブの女は後悔していた。

すがる想いで飛び込んだ城壁の中身は、小さな市場街。おまけに頼みの綱だった城壁も半分近く崩れ落ちている。太古の遺跡といえば聞こえはいいが、ようは他国の侵略に耐えられなかった末路だ。


追手のサンドシップに回り込まれ、砲弾の雨にさらされてる街。逃げ惑う人々の姿を見て、それでもなお一縷の希望を捨てきれない自分に嫌気がさす。どうあがこうと状況は変わらないのに。


それは突然だった。頭上からバケツをひっくり返したような雨が降り注いだ、いや、本当にひっくり返したのだ。雨水の貯蔵瓶が頭上で割れている。水溜りにキャムの足が取られ速度が落ちる。


「こっちへ。早く」


割れた瓶の横で巨大なハンマーを持った黒髪の少女が叫んでいる。目の前に上がる砂柱。


「早く!」


迷っている時間はなさそうだ。女神レミナスのお導きと自分に言い聞かせ、少女の駆け出す方へと付いていく。



不意に上から影が降ってくる。石畳の脇に立つ住居跡からボロを纏って半月刀を片手に持った砂賊達が、ローブの女目指して次々に襲い掛かってくる。


「ヒィィ」


相変わらず腰にしがみつくだけの同乗者に、反撃したくとも上手く立ち回れない。辛うじてかわすも次々に降ってくる影に思わずよろける。砂賊の半月刀がローブの女の首筋を捉える。


唐突に砂賊が壁目掛けて弾け飛ぶ。2ミールは有るだろうか、キャムの頭に届きそうな背丈の男が拳を突き出して立っている。驚異に感じたのか攻撃目標が男へ移り一斉に襲う半月刀、それを交差した両腕で防ぐと軽々と弾き飛ばす。


湧くように現れる砂賊にキャムに乗ったままでは上手く応戦できない。手綱を腰にしがみつくローブの男に強引に握らせると、キャムの背中に手を付き飛び上がる。悲鳴と共に走り去るキャムとローブの男。


華麗に宙返りして腰の短刀を抜くと、砂賊達の中央に着地する。その所作の美しいさにワンテンポ遅れて一斉に斬りかかる半月刀、それを巧みな太刀さばきでいなすと、しゃがみ込み回転して足払いする。倒れる砂賊たち。ローブがはだけ銀髪の長い髪が弧を描くと、髪の間から先の尖った耳が見える。


形勢逆転したかに見えたが、圧倒的な人数と止まない砲弾の雨が、背中合わせのふたりを追い詰める。





「頭、旦那から連絡です」


サンドシップの船首で、遠眼鏡を片手に街の様子を伺っている眼帯の男。呼びかけに振り返ると巨大な伝声管でんせいかんを受け取り、耳にあて数回頷く。


「ちっ。行くぞ、野郎ども!」


濁声で号令を掛けるが内心は穏やかではない。


話が違うぜ、旦那。


後方に控えていた2隻のサンドシップが遺跡の街に船首を向ける。

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