03

「おい!」


大丈夫か、と駆寄ろうとしたラグだったが、砂煙の中に無傷で佇むソフィアとガイオナを見つけ唖然とする。


ソフィアの黒い大きな瞳が青く光って見える。視線の先には一頭のキャムが、ローブを着た二人組を乗せ街中を駆け抜けていく。それに狙いをすませて飛んでくる砲弾が、砂柱をあげる。


「みんな、家に戻って、いい」


子供たちにそう言い、ガイオナに耳打ちすると、ソフィアは走り出す。


「おい!」


慌てて後を追うラグ。


冗談じゃないぜ。


ラグの脳裏には忌まわしい首輪の呪いが浮かんでいた。





「主従の輪?」


少女の後をついて行きながら、聞き慣れない言葉に首をひねる。


「はい。私が貴方の罪を買った証です」


砂が降り積もる石畳を、大荷物を担いで進む小さな背中。


「腕輪は主人、首輪は従者。貴方に払った代金分だけ金品かもしくは労働で返して貰います。あ、おばさんそれ下さい」


「はいよ。あれ?あんた」


真っ赤に熟れたトトママの実を手渡しながら、女店主はソフィアの背後に目線を送る。その訝しげな顔を見て振り返ると、ラグがふてぶてしい顔をして立っている。


「あ。ほら、挨拶して。マルタタおばさんが許してくれたから、罪の金額もすごく下がったんだから」

「……悪かったな。腹が減って死にそうだったんだ」


まるで怒られて不貞腐れた子供だ。その顔の前に、丸い物が放物線を描いて放り込まれる。


「それならそうと言やあいいんだ。うちには手伝ってもらいことが山程なるんだからさ」


受け取ったリリゴの果実の優しい桃色みたいに笑うマルタタ。一口かじったその味は甘くて少し酸っぱかった。


色とりどりの果物や野菜を手に取り籠へと入れると、首から下げた小袋から色鮮やかな石を取り出しお代として払う。城壁沿いにならぶ数々の店のそのどれからも、ソフィアを呼ぶ声が聞こえてくる。


「ひとつ聞いていいか?」

「無駄ですよ。ブブカス隊長も言ってましたけど、従者が主人に危害を加えようとしたり死んでしまったら、首輪が締まって最後には、」

「いや、そうじゃ無くて。あんた、おれにいくら払ったんだ?」


突然止まる小さい背中に、追突しそうになる。


「ここです」


そう指さしたのは、ガラクタばかりが店先に並ぶ、街の中心から1番離れた、今にも傾きそうな大きなボロ屋だった。




キャムを起きかけ、ふたりが街中を走る。


「どうするつもりだ?」

「なんとかあの人達を止めないと」

「無茶言うな。街中とは言え、ここいらでアレの足に追いつける奴なんていないぞ」


その返事には答えず、街の中心に置かれた大きな瓶目指し方向を変える。しかし、街中を疾走するキャムからは離れていく。並走していたラグも慌てて方向転換した。

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