最終話 言いきれぬ後日譚

 こうして僕の過ごした炎の二日間は終わりを告げる。確かな喪失と一つの変化を残して。

「獅童さん、朝ですよー」二度寝を決め込もうとしていた僕に階下から聞きなれた挨拶が飛んでくる。毎朝聞いていたあの声、郷愁に囚われる透き通った高い声。言われるまでもなくアンナの声だ。

「今行くよ」そうとだけ伝えて、僕はあの日の後のことを思い出す。アンナはあの事件の後、両親と姉であるマコトが死亡し、文字通りの天涯孤独になった。そこを僕の両親が引き止め、現在居候の身となったわけだ。そのことについて、僕は結局、彼女に真実を伝えることはできなかった。そのことについて深く聞かれることはなかったけれど、代わりに彼女はただ『私は姉を信じていますから』とだけ言って、ニッコリと笑った。あの笑顔を思い出す度に僕は思う。あの日々のことをいつかきっと話さねばならない、と。

「いつか彼女も、君に似るんだろうか」そんな風に呟く僕の後ろで、どこか彼女が笑った気がした――ハーモニカの音が、聞こえる。

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カムカケル ~仮想配信者と焔の事件 @yabazaemon

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