第11話 無走空奏
「エイムス、いや
「……なんだ。気づいていたのか。しかしここにいるのは用務員の絵描泰三だが」男の軽口に僕は答えない。
「僕が要求することは一つ。そこにいる大逆アンナの復活だ」
「おいおいおい。死人の復活ってかァ。そいつを生き返らすために、そこの男女は頑張っていたって、通りすがりの用務員の俺は聞いたぜェ」
「それはお前の嘘だ。無走。フランスであの事件が起こっているなら、既に神卸は成功しているはず」
「それも、エイムスって奴の嘘かもしれないだろ」
「仮にそれが嘘でも、マコトに操られてる時以外のアンナは普通の人間として生活していた。配信だって、長年の僕が気付かなかったくらいだ。最近になって妹の配信を知った姉が真似できることじゃない」
「なるほど、だとして何故俺だ」
「絵が下手な人間は、デッサンなんか持ち歩かないもんだ。エイムス。それに、マコトは脳筋のくせに、この事件の性質に関して妙に詳しすぎた。アンナを操ったり、上手く計画変更したりな。極めつけはこのマコトの義手。これはマコトが消火する際に切離した腕の代わりだが、これは上手すぎる。間違いなく、何でもできる芸術家のお前が関与してると思ったよ」僕が話し終えると、パチパチパチパチと嘲りにも似た乾いた拍手が鳴る。
「いやはや見事。笑っちまうくらい見事。ところどころヒントは与えたがね。流石は俺が選んだ探偵役だよ。見事すぎるからおまけに女の子を治してあげようねっと」男はつかつかと歩いてゆき、アンナの背骨の遺骨を掴み、ぐぐぐと引き抜く。すると電源が入ったかのようにアンナが起き上がり、所在なさげにこちらをキョロキョロと見回す。
「アンナ!」駆け寄って抱きとめる。
「えっ。えっ。なんですか」少女は突然の抱擁に困惑した様子をみせるも、状況を察すると大人しくなる。よかった。本当に。よかった。その時、抱擁する僕の視界の裏で動くものを僕は見逃さなかった。
「待てよ」無走は立ち止まる。
「お前がしたことを忘れたのか。お前の詐欺のせいでマコトは死んだ。その責任を取ってもらわないと釣り合いが取れない」無走はため息を吐く。
「お前が話す出来事とやらには証拠がない。お前は、あくまで蓋然性が高そうな流言を並び立てているだけで、そこには真実はない。例えば、マコトとやらに相談役がいると誰が保証できる? 精工な義手の出所をどう証明できる? そしてお前はそういう曖昧な俺を裁けない。自分が一番そう感じているはずだ。だから俺に自戒を促す」じゃあなと言い立ち去ろうとする無走に僕は何も言えない。全てが奴の思うが儘、この行動も全て見透かされていた。でも、それでも。
「お前は一体何者なんだっ!」震える声帯を振り絞って叫ぶ。
「
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