第50話
「はぁ、はぁ。よいしょ……んしょっと」
困惑する安路を
囚人服を引っ張り吊り上げようとするが、服が伸びるばかりで肝心の体は持ち上がらず。腕力が足りない上、運搬で体力を消耗しているせいだろう。
そこで今度は、死体を
「うっぷ……うぇっ」
フォークリフトよろしく段々と死体は持ち上がるが、それに比例して恵流は不快感を露わに歯を食いしばる。文字通り、目と鼻の先に血を噴く肉があるのだ。死がもたらす悪臭と他人の血液を浴びる不衛生さは、育ちの良い彼女にとって耐えがたい苦痛だろう。
手伝うべきか。
安路はどうして良いかわからないまま、ひとまず立ち上がろうとして、
「怪我人は座ってなさいっ!」
鬼気迫る命令に
どすっと衝撃、同時に錆びた金属が軋む音。
やっとのことで春明の
これでモニターに残るのも、安路と恵流の二人だけである。
「どうして、瀬部さんを座らせたんだ?」
「決まっているじゃない、もうそれしか方法がないからよ」
頭頂部から足の先まで、恵流は全身血みどろだ。荒い息を吐いて歩み寄ってくる姿は悪鬼のそれ。初めて会った時の印象とは百八十度違う、本性に沿った出で立ちに彩られている。
「私が、最後の一人になる」
恵流は真正面から相対するよう、仁王立ちで立ち止まる。見下ろす真紅の
立ち上がれない、逃げ出せない。
やおら恵流の右手に黒光りする塊が現れる。スカートに隠されていたそれは、
シリンダーの穴からして総弾数は五発。安路の知る限り、これまで四発放ったので残るは一発のみ。だが、その一発だけで容易に人の命を奪える。確実に射殺されるだろう。死体になれば後は簡単、軽い体は四肢を切り落とす必要もなく、手早く椅子に座らされる。そうすれば最後の一人は恵流だ。晴れてこの密室から抜け出せる。
安路の生死は、名実ともに恵流が握っている。数秒後には全ての運命が決し、現世から解脱していてもおかしくない。
冷え切った汗がこめかみから
果たして、拳銃はくるりと逆上がりのように回転し、
「椅子に座る最後の一人って意味でね」
グリップ側が向けられた。
銃口ではない。焦げ茶色で
撃ち殺すのではないのか。意外な行動に目を白黒させていると、恵流はそっと拳銃を手渡してきた。
「え、え?」
彼女の真意がわからない。
春明の亡骸を解体して運んできた。それはつまり、ルールに
どうすれば良いかと手をこまねいていると、恵流は溜息を一つつく。
「だから、そのままの意味よ」
「ま、待って。つまりそれって」
「私が六脚目に座れば“罪を悔い改めし者”が全員揃う。そうすれば条件達成、門が開くってこと」
彼女の説明は誰もが知る正攻法。故に死体を揃えようとする輩が現れ、実際守や春明のせいで犠牲者が出た。しかし、脱落を意味する椅子に自ら座るとは何事か。一度腰を下ろせば、永遠にこの場所で拘束され続けるかもしれないのに。
その捨て身の行動は、
「あなたが最後の一人になるのよ」
安路を勝者にするため、恵流が人柱になるという意味なのだ。
やっと意味を理解出来た。しかし納得がいかず、全身の細胞がそれを拒んでいる。
デスゲームが始まってからずっと、彼女を外の世界へ無事に帰そうと奔走してきた。参加者の中で最年少、か弱い少女を救うことこそ使命のはず。その
それなのに、恵流自身が犠牲を望むなんて。
「だ、駄目だよそんなの。だってまだ終わりと決まった訳じゃない。ルールに従う以外にも、ここから脱出する方法があるかもしれないし。謎解きだってまだ途中だし……!」
そう、まだ可能性は
殺し合いで
もはや自分達しか残っていないのだ。諦めるのは、謎の解読に尽力してからでも遅くないのではないか。
「もう時間がないって、あなたが一番わかっているでしょ!」
だが、恵流の
「私はまだいいけど、安路には一刻の
「そ、それは……そうだけど」
一から十まで正論だ。
両肩と掌を
「大体、本当に謎解き要素があるのかも、今となっては怪しいのよ」
恵流は更に続ける。
「デスゲームの参加者は、形は違えどみんな罪を犯した人。わざわざそんな人間ばかり集めたんだもの、相応の罰を受けさせるのが目的と考えた方がいい。それなのに助かる道を用意していると思う? むしろ逆よ。希望があると
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