第48話
「恵流さん、それは……」
両肩に左の
恵流は
「ご、ごめんなさい。私、本屋でコレ、見つけてから、ずっと隠し持っていて……」
歯の根が噛み合わずガチガチ鳴らしながらも、彼女は
予想通り、この拳銃も主催者が用意した物の一つらしい。懸命に脱出のヒントを探っている間、彼女は発見を報告せず武器をくすねていたのだ。
「だって、こんなの持っているってバレたら、う、奪われて酷い目に遭うかも、だったし、いざって時に役立つかなって思って。それに私、悪い子だから、自分で自分の身を守らなきゃって!」
言い訳しながら段々感情が制御出来なくなったのか、その
拳銃を隠し持っていたと知られたこと、過去に犯した非道な罪を暴かれたこと、そして自らの手で人を
「……っ」
かける言葉が見つからない。慰めるべきか、それとも罪を糾弾するべきか。そのどちらも、今の安路には選べなかった。
気まずそうに視線を落とすと、春明だった肉塊が目に飛び込んできた。端整な顔立ちに二つ穴が開けられており、裂けた入り口より
まじまじ見ていると吐き気が込み上げくる。損傷した
生々しい物を視界に入れぬよう更に目を伏せると、足元に一冊の本が、うつ伏せになって転がっていた。
題名は“あなたの隣にいる、罪を悔い改めぬ者達”。参加者七人の過去が記されている暴露本だ。この中のどこかに、安路の背負う罪も載っているはず。
社会のお荷物でしかない事実、向き合わなくてはならない十字架。
真摯に受け止めるためにも、主催者の言い分に目を通すべきだろう。そう決心して拾い上げようとしたのだが、直前でばっと持ち去られてしまう。
「見ないで……私の罪を、これ以上見ないで!」
恵流だった。
彼女は権力に物言わせて“いじめ”を指示し、最後は自殺に追い込んだ。しかしそれはあくまでも一部だけ。より詳細に克明に、
取り返そうと手を伸ばしたが、やめた。
これ以上の詮索は無用、お互い胸糞悪くなるだけだ。それに詳細を知ったところで何か変わる訳でもない。犯した罪は永遠に消えないし、なかったことにしてはいけないのだから。
「わかった、読まないよ」
なのでその代わりに、
「でも、君のやったことは許されない。誰も裁かなかったとしても、それを良しとしてはいけないんだ。正義は絶対。ここを出たら、しかるべき方法で罪を償うと約束してほしい」
語気を強くして、そう告げた。
「ええ、無事に出られたら、必ず……」
彼女の返答は望み通りだったが、どうも歯切れが悪い。言い終わると口を真一文字に結び押し黙ってしまう。
致し方のないことだ。
残る参加者は安路と恵流の二人だけ。デスゲームは未だに終わる気配がない。脱出方法を探ろうにも、散りばめられた謎は全く解けていないのだ。
生きて帰れる希望は、限りなくゼロに等しいだろう。
「痛っ!」
ずきりと両肩が痛み、
「じっとしていて」
恵流はしゃがみ込むと目配せする。何事かと体を強張らせていると、患者衣の
「痛たたたっ!?」
「動かないでってば」
両肩の傷口にきつくリボンを巻き付けて、包帯代わりに簡易的な止血をしてくれる。痛みは据え置きむしろ増した気もするが、少しでも出血を抑えるには仕方ない。
「ほら、手を出して。こっちにも巻くから」
続けて左の掌を貫通する刺し傷だ。こちらにはレースをあしらった白いハンカチが巻きつけられる。恵流の私物らしい。全く
「あ、ありがとう、恵流さん。応急処置が出来るなんて凄いね」
「別に。これもデスゲームもので得た知識の、
感謝されて恥ずかしくなったのか、恵流はぷいとそっぽを向いてしまう。悪人とわかって
正直なところ、恵流の
しかし、もし彼女がいなかったら、きっと安路は殺されていただろう。それ故に、義憤と謝恩が混在しているのが現状だ。
ならば、気持ちをフラットに、受けた応急処置に対して、素直に喜びの意を示すのが妥当だろう。過去や未来ではなく、現在何をしてくれたか。余計なしがらみに囚われていては前に進めないのだから。
「あ、しまった」
処置のおかげで、とても大事なことを思い出した。
中央の部屋で、明日香が放置されたままだ。顔面は青紫色に
まだ間に合うかもしれない、と希望を胸に、安路は傷だらけの体を引きずり中央の部屋へ急行した。
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