第28話
※
金属バットが捉えたのは明日香の方だ。額から血の花びらを散らせて
絶好のチャンスで、何故明日香を殴ってしまったのか。
その答えは至って単純、そして理解し難い理由。
春明が肉の盾として利用したからである。
「て、てめー、何やってンだよ……」
「見ての通りわかるしませんでしたか?」
「そいつは仲間じゃなかったのかって聞いてンだよ!」
「そう見えるでしたなら、ワタシの狙いうまくいったですね」
女を身代わりにしたのに悪びれる様子は
共に行動していたので仲間と思っていたが、全部自分の勘違いだったようだ。
実際、意表を突かれてしまった。姫を守る騎士が、突然姫を盾にすると誰が予想出来る。きっと明日香自身も想定外、何故殴られたかわからなかっただろう。
「でもいいのかよ。怒るンじゃねーのか、そいつ?」
「ああ、そうですね。ワタシ雇うの体売る条件言うしてましたから」
見た目通り、明日香は
だが、明日香の芯のなさも吹き飛ぶような、衝撃の告白が飛び出す。
「それにワタシ、女嫌いですからね」
「は?」
「美しい男の体は触るたいですけど」
片言の日本語で要領を得ないが、要するに女が苦手で男が好き。故に明日香を裏切ったそうだ。淫売の身売りに気分を害するのも頷ける。
「ってことはアレか、最近話題のLGBTとか言うやつか」
同性愛や肉体と精神の不一致など、性に
春明は男性だが、性的に好きな対象も男ということで良いのだろうか。知識の浅い守では、その程度の理解が限界だった。
そして別の意味で身の危険が迫っていると感づく。
守は己の尻を庇うように一歩後ずさるのだが、
「あなたの尻穴ワタシ全然興味ないですね。安心するいいですよ」
そちらの心配はないらしい。
が、
構えた金属バットはそのまま、いつでも振り回せるよう臨戦態勢を維持する。
「でも、タマはもぎ取るさせてもらいます」
春明はバタフライナイフを華麗に回してグリップを閉じると、囚人服の胸ポケットへ。代わりに明日香の握る手斧を奪い取る。
右手に手斧、左手には鎌。二刀流の殺意が先程よりも数段増している。
「取られンのはてめーの方だっ!」
先手必勝。二刀流の構えが整う前に攻め切る。
守は剣道の“面”を打ち込むように金属バットを振り下ろす――も、春明は不安定な体勢から余裕の回避。打撃はリノリウムの床を叩くだけだ。
早く体勢を立て直さないと。
しかし、それより早く手斧が
守の手を離れた金属バットは空中で高速回転。残像で円形に見えるそれは、天井のシャンデリアを模した蛍光灯へと飛翔していく。
「なっ!?」
――ガシャンッ。
すっぽ抜けた金属バットが蛍光灯を
激突の直後、
守は
殺し合いの最中に自ら視界を塞ぐとはなんたる愚策。ただの自殺行為だ。
慌てて両手を顔から離し、敵を見据えようとするも時既に遅し。眼前には春明、一気に肉薄して鎌の横一文字斬り。守のビール腹にざっくり刃が食い込み、脂肪を
カランッ。春明の脇に金属バットが落ちて跳ねた。
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