第9話
※
玲美亜が素通りしたゲームセンター、“シュラ・La・ランド”。
設置されたゲーム
とはいえ、
ただ一つの例外を除いて。
ぬいぐるみ
最初に見つけたのは織兵衛だった。
「な、何で、こんな物が?」
弓と銃が融合したような物体が、ファンシーグッズの中に紛れ込んでいる。
クロスボウ、またの名をボウガン。引き金を引いて矢を放つ、れっきとした武器である。ご
「よ~し。行け、行け、行け!」
無料なので、試しにUFOキャッチャーをプレイする。
前屈みでボタンをタイミング良く押す。アームが下がって掴みかかり、クロスボウの弓部分に引っかかる。一発だ。パチンコやスロットで鍛えた技術が功を奏したか。
と、脳内で快感物質が
「ああ~っ、駄目かっ」
クロスボウは滑り落ち、ぬいぐるみの間にすっぽり戻ってしまう。
だが、織兵衛は再度プレイする。
失敗したまま終わりたくない。普段の賭け事と違い無料、負債を気にせず連続チャレンジだ。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たるの精神。
もっとも、それで成功すれば人生苦労しない。案の定、クロスボウは取れないまま。
手の震えが止まらず、ここぞという場面で操作ミスをしてしまう。取れた、と思った途端にクロスボウは落ちていく。アルコールを摂取すればうまくいくだろうが、この場に酒類は置いていない。ないものねだりだ。
「はぁ。思い切りかっくらいてぇなぁ」
酒が何よりの好物だった。
若い頃からアルコールと共に過ごす日々。飽きずに毎日浸り続けてきた。
そもそも辛いだけの人生、酒がないとやっていけない。しかし、酒のせいで失敗し、人生はより辛くなる。
生まれは貧乏、仕事は長続きせず職を転々としていた。自身の資質に問題があったのか。否、突き詰めると、原因の半分は酒だ。警察のお世話になってもやめられない、まさに依存症。最終的に職を失い、現在ネットカフェ生活。友達はいなくなってしまった。
弱音を吐けば良かったのかもしれない。
誰かに相談すれば良かったのかもしれない。
だが、「男たるもの泣くな」と教育された者として、それは無理。黙って耐え忍ぶことこそ美徳と信じて疑わない。
結果、誰にも気付かれず、公的支援も受けられずどん詰まり。若者達からは「老害」「クソジジイ」と
六十余年、無駄で無意味で無価値な人生だった。
ひっそりくたばるのがお似合いだろうか。自虐的に笑うしかない。
「へっ、へへっ。ど、どうせこんなもんだよな」
結局、織兵衛はUFOキャッチャーを諦めた。
パチンコやスロットと同じだ。景品は射幸心を煽るだけの客寄せパンダ。実際に取れるとは言っていない。むしろ簡単に勝てるのなら賭博は流行らない。客が損して店が儲かる。それが鉄則なのだ。酷い場所では裏で外れやすく確率を操作し、どれだけ努力しても勝てないよう設定されている。なんて話も聞くほどだ。
まるで世の中と一緒。人生に逆転出来る要素は一切ない。生まれながらの勝ち組が勝ち続けるだけの、仮初めの希望だけが虚しく漂う社会。そのくせ「信じる者は救われる」と、努力こそが至高と
自分は敗者、世の最底辺を這いつくばって終わる。
織兵衛は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます