第8話
※
玲美亜は嘘をついていた。
“六名の罪を悔い改めし者が座する時、残されし最後の者が光を臨める”
モニターに映し出された一文から、集められた者は全員罪人なのでは、という疑いが浮上した時。必死に否定する安路の側につき、玲美亜は「自分にも覚えがない」と弁解した。
しかし、それは真っ赤な嘘だった。
「何よ、何よ、何よ。あんな軽薄そうな男が、なんで家庭なんか持っているのよ!」
ペットショップを覗いてみれば、そこには金属バットを手にした守。てっきり襲われるかと、反射的に悲鳴を上げてしまった。
それに関しては気にしない。叫んだ
守は「娘がいる」と言った。
信じられなかった。粗暴で知能が低い底辺男性が、幸せな家庭を築いている。その事実を認めたくなかった。
「私だって……!」
持たざる者の
玲美亜にも、愛する夫と一人娘がいた。幸せに満ち溢れていた家庭があった。
あった。そう、過去形だ。
彼女には離婚歴がある。俗な言い方ならバツイチ。現在は孤独な中年女性だ。
その原因こそ、玲美亜が自覚している罪。嘘で
自分の娘を死なせてしまったことである。
ゲームセンターを素通りし、衣料品店“Gene Do”に駆け込む。
誰にも会いたくない、見られたくない。
試着室に潜るとカーテンを閉め、
鏡に映る自分はみすぼらしい。目つきは悪く、体はげっそりと貧相。
自身の現状を直視したくない。玲美亜はそっと壁へと目を逸らす。
「どうして、どうしてなの」
真面目一辺倒に生きてきた。
勉強、就職、結婚。順当に経験すれば必ず幸せになれる。親族からの「早く孫を見せろ」という
それなのに、自分が幸せになれないなんておかしい。
我が子を失い、不幸のどん底に落ちるなんて、話が違うではないか。
娘は事故死だった。
灰色の青春時代を過ごした自分が、
辛くて苦しいばかりの子育てをこなした。良い母親であろうと
それなのに、事故を機に周囲はあっさり掌返し。「母親のくせに何をしていた」と
ともかく、娘の死を機に全てを失ってしまった。
それなのに、どうして。
「あんな奴が……!」
幸せな家庭を築いたという事実が許せない。
守のような、何不自由なくおちゃらけて、後先考えず好き勝手した人間が。何故、自分にないものをたくさん持っているのだ。
真面目だけが取り柄。学生時代は勉強漬け。将来のために青春をかなぐり捨てた。
その結果が、娘の事故死と
不公平。
努力が報われない、真面目な人間が損をする世の中は間違っている。
玲美亜は唇を強く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます