第99話  フランスへ その十

一行は、山道を北へと分け入った。

かなりの高度までは針葉樹の林が続いている。 あたりは大木が林立し、木の間より差し込む日差しは光の道を作って、浅緑のビロードの様な草に覆われた地面に降り注いでいた。 林の中には所々に白や紫や薄紅色の花がひっそりと咲いていた。

そうかと思うと、小川の岸辺の僅かな草原には、星くずの様な白や黄色の小さな花々が、天の川の様に咲き乱れていた。

馬は人気の少ない山道を登り続けた。

突然、視界が開け、イザベラは息を飲んだ。

まばゆい様なお花畑が、目の前に広がっているのだ。

色とりどりの可憐な無数の花々が斜面を覆い尽くし、絨毯を敷きつめた様であった。

そして、彼方には、残雪に輝くアルプスの峰々がそそり立っていた。

ひときわ高く見えるのは、モンテ・ローザであろうか。 

あたりの緑とは全く異なる銀を帯びた青白色の山々は、天を衝く様にそびえ立っていた。

イザベラは、その偉容に打たれ、馬を止めた。

「とうとう、ここまで」

イザベラは、万感の思いで仰ぎ見た。

書物にも読み、話にも聞きしこの山を、今、かかる旅の身で見ることを思う時、イザベラの心は千々に乱れた。


イザベラは、再び馬を進めた。

登りゆくほどに峰々はさらに眼前に迫って来た。


夕方、一行はサンプロン峠の麓に差しかかった。

今朝借りた馬はここまでであり、峠を越えるには別の馬主を探さなければならなかった。        つづく

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