第74話  絆 その八

そのままエリザベッタは西へ、イザベラは北へと別れて帰途に就いた。

馬車は寂しく車輪の音を響かせて、夕暮れの道を北へ向かった。

イザベラは、力の無い死んだ様な目を窓外に向けた。


イザベラは、はっとした。

誰かが遠くから呼んでいる。

イザベラはとっさに馬車の窓から身を乗り出した。

見ると、過日、最初にナポリから来たあの使者が馬を駆ってこの馬車を追って来るではないか。

「止めて。」

鞭のうなりとともに馬車はぴたりと停止した。

「ああ、間に合った。

お妃様、殿様が今アンコーナにお着きになりました。」

「えっ」

「お妃様が今しがたアンコーナをお発ちになったとお聞きして、全速力で参りました。

さあ、早く。 御案内致します。」

そう言うや、使者は馬に一鞭当てると、また全速力で今来た道を引き返した。馬車は急いで方向転換すると、その後を追った。


アンコーナの町はずれまで来ると、さっきは無かった天幕が幾つも並んでいた。

イザベラは、その中央の一番大きな天幕に丁重に案内された。

我を忘れて中へ駈け入ったイザベラは立ち尽くした。寝台に横たわっているフランチェスコは頬はこけ、目は落ち込み、別人の様に蒼ざめた顔であった。

イザベラは枕元に膝まずき、目にいっぱい涙をためてフランチェスコの顔を見た。

フランチェスコは顔をこちらへ向けた。

「痩せたな。」

フランチェスコは力の無い声で言った。

イザベラは涙が一気に溢れ、フランチェスコの胸の上に身を投げ出して泣き崩れた。

                      つづく


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