第72話  絆 その六

数日後、イザベラはジギスムントに付き添われ旅に出た。

南イタリアを目ざして、イザベラは手紙を手がかりにフランチェスコをたずねあるいた。

先ず、ラヴェンナの町を探したが、何処にもそれらしい人物を見たという人はいなかった。

フランチェスコはまだ、ここまで到っていないのであろう。

イザベラとジギスムントはさらに南を探すため、アドリア海沿岸の街道を南下した。

次に訪れたのはリミニの町であった。しかし、ここにもフランチェスコを見たという人は無かった。

その夜、イザベラは熱を出した。

「姉上は、この町で御養生下さい。私たちが兄上を探しに参ります。」

ジギスムントの声には真心がこもっていた。

「この先は、今までにも増して苦しい旅路と聞いて居ります。

今の姉上のお体には無理です。」

「そうです、お妃様。どうか私たちにお任せ下さい。」

従者も口々にそう言った。

イザベラは、袖で顔を覆って泣いた。

「今の私には、もはや、いとうべき我が身はございません。」


夜が明けると、イザベラはまた馬車に揺られて旅を続けた。

一行は南下を続け、ペーザロに到った。

イザベラは数年前エレオノーラの誕生を祝ってロレトへ巡礼した折り、この地に立ち寄った時のことがまざまざと甦り、悲嘆に胸が引き裂かれた。

イザベラは、この町にフランチェスコがいるのではないかと思った。

「姉上は馬車でお待ち下さい。」

「お妃様は、御病気ではございませんか。」

皆は必死で止めにかかったが、イザベラは振り切って馬車から降り、町の中へあくがれ出でた。

フランチェスコは、きっと街道沿いに天幕を張って宿泊しているに違いない。

イザベラは道のそばの広場という広場を探し歩いた。しかし、何処にもフランチェスコの姿は無かった。イザベラは、大人や子供や沢山の人々に尋ね歩いたが、誰も知らなかった。

フランチェスコは、この町にも来ていなかった。

「南から来た巡礼なら知っているかもしれない。」

イザベラは、道を行く巡礼をつかまえては、フランチェスコを知らないか、尋ねた。イザベラは町中を歩いて、一人一人の巡礼者に聞き歩いた。しかし、誰一人フランチェスコを見たという人は無かった。

                   つづく

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