第68話  絆 その二

1496年が明けた。

この度はヴェネツィアだけが出兵するので、フランチェスコは先ずヴェネツィアへ赴き、そこからナポリへ旅立つことになった。

いよいよフランチェスコがヴェネツィアへ発つ日、もうすっかり用意は出来て、皆は見送りのためお城の前に並んでいた。

イザベラは、独り急いでエレオノーラを連れに行った。

お城の一番奥にあるエレオノーラの部屋の前まで来た時、不意に階段の陰からフランチェスコが現れた。

「殿・・・」

イザベラは、それっきり何も言えなかった。

「泣いてもいいよ。」

イザベラは、目をうるませながら、ただ首を振った。

フランチェスコは襟元からあの小さな金の十字架を持ち上げ、小さく揺らして見せた。

そして、きびすを返すとそのまま走り去った。 

イザベラは、声を立てずに泣き崩れた。


フランチェスコがいなくなったマントヴァで、イザベラは毎日エレオノーラを抱いて、マンテーニャの絵の中のフランチェスコに会いに行った。

マンテーニャは以前にもまして無口になり、黙々と絵筆を動かしていた。

                     つづく

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