第63話  イタリア戦争 その九

6月7日夜、フランチェスコは、勝利に酔いしれるタロの谷間の同盟軍の陣営で、独り手紙を書いた。

「特使から聞いてくれているだろうが、昨日の戦いは大変激しいものだった。

そして、我が軍は多くの人を失った。その中に、我が叔父ロドルフォ卿と従弟のジョヴァンニ・マリア殿も含まれている。敵軍はより多くの兵士を失った。

我々がどの様に戦ったかは全ての人が知るところであり、ここでは改めて触れない。ただ、これだけは言っておくが、我々は四面楚歌の窮地に陥っていた。

神が我々を救って下さったとしか思えない。

この様な混乱が起こったのは、ヴェネツィアのギリシア人およびアルバニア人の傭兵たちが指示に従わなかったからだ。彼らは略奪を欲しいままにした上に、肝心の危機に瀕した折りには誰一人姿を見せなかった。

神の御蔭で我々は救われたのだ。

多くの兵卒が無為に敗走した。追われてもいないのに。

大部分の歩兵がそうだ。後に残った歩兵は僅かだった。

これらのことは、いまだかつて無かったほど私の心を暗然とさせた。

もし運悪く敵が立ち向かって来ていたなら、我々は玉砕していたはずだ。

フランスの貴族で我々の捕虜になった人もいる。

敵は今朝出発し、丘を越えてサンドミノ村とピアチェンツァに向かった。

我々は彼らの進路を見て、如何にすべきか考えるつもりだ。

もし、もっとまともな軍隊が我々の様に戦っていたなら、勝利は決定的なものとなり、フランス人は一人として逃げられなかったはずだ。

じゃあな。」

フランチェスコは重いため息をつくと、燭台の光を吹き消し、床に就いた。


その夜、フランス軍は行軍を続け、タロの谷をよぎってロンバルディア平原を退却し続けた。


空が白むと、フランチェスコは出陣した。

                つづく

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