第58話 イタリア戦争 その四
「あっ、殿。」
廊下の向こうにフランチェスコの姿を見つけると、イザベラは駈け出した。フランチェスコもイザベラに気づくと駈け寄って来た。
「緊急のお話って?」
「そのことで君を探していたんだ。」
フランチェスコは自分の部屋へ入った。イザベラも続いて入った。
「悪いけど、ちょっとみんな席を外してくれない?」
侍女や執事たちは出て行き、部屋の中は二人だけになった。
窓の外の蝉しぐれがやるせなく部屋を包んだ。
「フランス王シャルル八世の軍隊がイタリアに侵入した。」
「えっ」
イザベラは息が止まりそうになった。イザベラは、体中の震えを抑えることが出来なかった。
「シャルル八世は3万の大軍を率いてアルプスを越え、ミラノのアスティに入場した。」
「アスティに・・・」
「この度のイタリア侵攻には、ロドヴィコ殿が手を貸しているらしい。」
イザベラは驚きのあまり声が出なかった。
「フランス王と結ぶことで権力の拡大を狙っているんだ。」
二人の間に沈黙が流れた。聞こえるものはただ、気の遠くなる様な蝉しぐれだけだった。
「殿、私たちの取るべき道は?」
イザベラは静かに口を開いた。
「そのことで君と相談したかったんだ。実は今しがた、フェラーラの父上から手紙が届いた。アスティでフランス王と会見されるため今日の夕刻フェラーラを発たれるそうだ。」
「それでは父はシャルル八世陛下を支持すると?」
「そのおつもりらしい。」
イザベラは一点を凝視した。
「殿は如何お考えでございますか?」
「わからない。まだ何とも言えない。しかし、当面はフランス王を支持する以外に道は無いのではないかと思う。」
イザベラは黙ってうなづいた。
つづく
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