第57話  イタリア戦争 その三

「これです。殿様からのお手紙です。」

いきなり執事は封筒を取り出すと、イザベラに渡した。

「親展・・・」

イザベラは不吉な胸騒ぎを覚えた。

部屋へ行って急いで封を切ると、それは長い手紙だった。

イザベラは食い入る様に読み始めた。

それには次の様に書かれていた。

ドビニュイというフランス人が、3人のフランスの大使および85騎の騎兵とともに4月23日マントヴァに到着。

ナポリへ出兵するためフランス王の軍隊の領内通過を許可して欲しい、と求めてきたのである。

そればかりか、フランス王シャルル八世の陣営に入る様、極秘にフランチェスコに要請してきたのであった。 もしもフランス王にくみすれば、大将および式部長官の位を進呈する、と。

しかしフランチェスコは、既にヴェネツィアの長老と契約しているのでこの申し出は断るつもりだ、と書いていた。

読み終わってイザベラはいつまでも身動きしなかった。

このイタリアに・・・ルネッサンスの花が咲き誇るイタリアに、今、運命の転機が迫りつつある。  イザベラはそんな思いを振り払うことが出来なかった。


イザベラは取るものも取りあえず、その日の夕方ボローニャを発ち、マントヴァへ帰った。

時は1494年。  15世紀は今終わろうとしていた。

                    つづく


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