第52話  試練 その八

それでも、フランチェスコは毎夜帰って来る様になった。 あの同じ時刻に。

そしてイザベラは、その足取りがだんだん速くなり、裏玄関の前に立ってから扉を開けるまでの時間が短くなってきたことに気がついた。

イザベラは毎日、真夜中に二人だけで食事をした。

初めのうちは笑みを絶やさない様にしながら出来るだけ静かに振舞っていたが、だんだんと楽しい話題を持ち出す様にしていった。

毎日ほとんど寝られないのでふらふらになったが、それでもイザベラはやめなかった。

フランチェスコはだんだん、イザベラが面白い話をすると笑みがこみ上げてくるのを隠さない様になってきた。  しかし、決して自分からは話しかけてくれないし、イザベラが何を言ってもぽつりぽつりと二言三言しか受け答えしなかった。  イザベラは、時折り情けなくなり途方に暮れたが、決して諦めてはいけないと思った。

ただ、こう毎日寝られなくては今に倒れるのではないかと、それが恐ろしかった。

或る夜、イザベラは瞼がじりじりと下がって来るのを必死でこらえていたが、とうとうテーブルの上にうつ伏して眠ってしまった。

はっと目が覚めると、鎧戸の隙間から曙の光が差し込んでいた。

イザベラは青くなった。フランチェスコは何処にいるのだろう。イザベラは、慌てて立ち上がろうとした。その時、イザベラは肩に何かが掛けられていることに気づいた。見ると、それはフランチェスコの上着だった。イザベラは体中が微かに震え、いつまでも立つことが出来なかった。

                  つづく

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