第32話  マントヴァの雪 その五

イザベラはフランチェスコのきょうだいたちともすぐに親友になった。

ゴンザーガ家のきょうだいは上から順に、長女キアーラ、長男フランチェスコ、次男ジギスムント、次女エリザベッタ、三女マダレーナ、三男ジョヴァンニの6人である。

長女キアーラはフランスのモンパンシェ公爵夫人でイザベラより10歳上、聖職者のジギスムントは5歳上、そして3歳上のエリザベッタは、あのウルビーノ公爵グイドバルドの夫人であった。2歳上のマダレーナは昨年(1489年)10月ジョヴァンニ・スフォルツァに嫁いだばかりであり、末弟のジョヴァンニはイザベラと同い年であった。

エリザベッタは体が弱く、ちょうど今、療養のためお里帰りしているのだ。

フランチェスコは昨年23歳の若さでヴェネツィアの総司令官を委託されて居り、しょっちゅうヴェネツィアに行かねばならなかったので、イザベラはエリザベッタにせがんで、6月までマントヴァにいてもらった。


エリザベッタが帰ってしまうと、イザベラは毎日が切なかった。

独りぼっち・・・この広いお城に自分は独りぼっちだとイザベラは感じた。

ストゥディオーロの窓からぼんやり湖を眺めていると、不意に窓の下から賑やかな声が聞こえた。見ると、イザベラと同い年くらいの小間使いの少女たちが手に手に箒を持ってやって来たのである。少女たちは庭を掃きながらお喋りを続けた。

「今日は早く帰らないとお母さんに叱られるの。」

「へえ、お母さん、怖いの?」

「うん、怖いと言えば怖いかな。」

「うちのお母さんは、とっても口やかましいの。」

聞いているうちにイザベラの目から涙がこぼれた。

イザベラは窓を閉めると部屋の中ほどの長椅子に座った。この椅子にエリザベッタと並んで座って様々なお話をしたことを思い出すと、また涙が出たが、イザベラはそれを振り払い、ストゥディオーロの計画を考えることにした。このことを考える時だけは、まるで人が変わった様に全身に力が湧いて来るので、イザベラは自分でも不思議だった。

フランチェスコはイザベラの計画に大賛成で、イザベラはそんなフランチェスコのためにも立派なストゥディオーロにしたいと思った。 

その時、イザベラははっとした。部屋の前で誰かが低い声で話をしているのだ。何とも言えない不安がこみ上げ、イザベラは思わず耳を澄ました。一人はフェラーラから来た女官ベアトリーチェ・ディ・コントラリだった。もう一人は誰だかよくわからなかった。

「お願いです。もう少しだけお待ち下さい。」

ベアトリーチェ・ディ・コントラリが言った。

                      つづく

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