第31話 マントヴァの雪 その四
手紙と言えば、難題な手紙を一つ書かねばならないのだ。
フランチェスコの叔父ロドヴィコ・ゴンザーガは、フランチェスコの弟ジギスムントと争って枢機卿の地位を獲得して以来、弟思いのフランチェスコと不仲になっていたのだが、それがどういう風の吹き回しか、結婚のお祝いに高価な宝石をイザベラに贈ってくれたのである。 イザベラは、何とかこの機会にフランチェスコとロドヴィコ・ゴンザーガを仲直りさせたいと思った。
ところが、あまり気負い過ぎて、まだお礼状が書けていないのだ。
イザベラは、フリテッラがどんなに思い切って手紙を書いてくれたかと思うと、涙がこみ上げ、勇気が湧いた。上手く書こうとするよりも誠心誠意書けばいいのだ、と自分に言い聞かせ、イザベラは脇目も振らずに書き始めた。
夕食に呼ばれてもまだ書き続けていると、フランチェスコがやって来た。
フランチェスコは、最近イザベラが元気が無いのを気にして、態度もどこか兄の様な感じになっていた。
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
そう言ってフランチェスコは背後から手紙を覗き込んだ。。
「あっ、駄目です。 出来上がったら読んでいただきますから。」
イザベラは机の上にうつ伏して手紙を隠した。
「いいじゃないか。まあ、いいや。ご飯食べないの?」
「もうすぐ出来ますから、先にお召し上がり下さい。」
フランチェスコは出て行った。
しかし、手紙はなかなか出来上がらなかった。読み直すと、どこかおかしいのである。イザベラはまた手を加え、そのたびに何度も読み直し、出来上がった時は真夜中になっていた。
翌朝、イザベラは食堂でフランチェスコが来るのを待っていた。
「おはようございます。 ゆうべはごめんなさい。
あの・・・これ。」
イザベラは便箋をフランチェスコに差し出した。
フランチェスコは食い入る様に読み始めた。イザベラは立ったまま目を大きく見開いてフランチェスコの横顔を見つめていた。フランチェスコが何と言うか、イザベラは身を固くして待っていた。
フランチェスコは、読み終わっても暫く黙っていた。その目はどこか一点を見つめる様であった。
やがてフランチェスコは顔を挙げると、一言
「有難う。」
と言った。 イザベラは、この人にこんな優しい顔があったのかと驚いた。
少し自信が出てきたので、イザベラはフランチェスコのもう一人の叔父ジャンフランチェスコにも手紙を書いた。彼とフランチェスコの間も今一つ上手くいっていなかったのである。
数日後、二人の叔父たちから非常に好意的な返事が来て、イザベラは涙が出るほど感激した。
そして、大変だけどこれからもずっと文通を続け、一族の中に決して不和を起こすまいと決意した。
つづく
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