第29話 マントヴァの雪 その二
イザベラは、まず手始めにストゥディオーロから取りかかろうと考えた。ここに優れた芸術品を集めるのだ。
「やっぱりこれはロベルティ先生にお願いするのがいいみたい。」
イザベラは立ち上がった。 ストゥディオーロの壁画を誰に頼もうか、と独りで悩んでいたが、結局、イザベラと一緒にフェラーラから来た画家の一人エルコレ・ロベルティが最適任の様に思われた。 フェラーラから来た画家は皆、じきに帰ってしまったが、エルコレ・ロベルティだけはマントヴァにとどまっていたのである。イザベラは、頼みとするロベルティがいてくれるので心強かった。
「ロベルティ先生にお願いして、今日からでも取りかかっていただきましょう。」
イザベラは、希望で胸が高鳴った。
しかし、ロベルティの部屋まで来ると、何か様子がおかしいと感じた。小間使いの少年や少女たちが部屋を片付けているのだ。
「あの・・・ロベルティ先生は、どちらにいらっしゃるのでしょう?」
イザベラが声をかけると、床を掃いていた少女が顔を挙げた。
「あっ、お妃様、ロベルティ先生は先程フェラーラにお帰りになりました。」
「えっ。」
「実は、御結婚式の御支度とポー川での船酔いのためロベルティ先生は随分お身体が弱って居られました。そして、もうどうにも我慢できないほど御気分が悪いとおっしゃって、先ほど取るものも取りあえずフェラーラにお帰りになりました。具合が悪くて御挨拶も出来ずに帰らせていただき、お妃様によろしくお伝えして欲しい、とおっしゃっていました。」
イザベラは、全身の力が萎えしぼむほど落胆した。
とうとうみんな帰ってしまったのだ。
ストゥディオーロに戻るとイザベラは、湖を見ながら物思いに沈んだ
「私も帰りたいな。」
初めてそんな気がした。
その時、侍女が入って来た。
つづく
<読者の皆様へ>
いつも「プリマドンナ・デルモンド 誰も知らないモナリザの秘密」をご愛読いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
皆様は、私のかけがえの無い友です。
今日2023年5月17日は、イザベラ・デステ侯妃生誕549年の日。
ほんの少しでもイザベラ侯妃に思いを馳せていただければ嬉しいです。
そして、来年の今日、生誕550年の日、さらに多くの方々が心の中で
「イザベラ、おめでとう。」
と思って下さる様になることが、私の願いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
稲邊富実代
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